
かつて42円/kWhという高値で普及を牽引したFIT(固定価格買取制度)の価格は、現在10円台へと大幅に下落しました。この価格低下は、一見ネガティブな要素に見えますが、本質は「設備コストの低下と市場の成熟」を示すものです。
高値での「売電収入」を期待できた時代は終わり、現在の経済的メリットの主軸は、電気代高騰に対する「自家消費による回避コストの最大化」へと完全にシフトしています。
1. FIT買取価格が大幅に低下した理由
FITの買取価格が、開始当初の42円/kWh(2012年度・住宅用)から10円台へ大幅に低下した主な理由は、以下の2点です。
- 設備コストの大幅な低下: 太陽光発電の技術進歩と大量生産により、パネルや設置費用が安価になりました。FIT価格はコストを基準に設定されるため、コスト低下に伴い毎年引き下げられました。
- 国民負担(再エネ賦課金)の抑制: 買取費用は国民の電気料金に上乗せされるため、普及拡大による国民負担の増加を抑制するために、価格を引き下げる必要がありました。
結論: 42円/kWhという高価格は、普及を促すための起爆剤であり、価格下落は市場が成熟し、初期の目的が達成された結果と言えます。
2. 現在の太陽光発電の経済的なメリット
現在の太陽光発電は、「売電で儲ける」時代から、「自家消費で節約する」時代へとシフトしています。
| 経済性の種類 | 昔(売電主軸) | 今(自家消費主軸) |
| 売電収入 | FIT価格が高く、最大の利益源だった。(例:42円/kWh) | 買取価格が下がり、投資回収の補助的な役割に。(例:16円/kWh) |
| 自家消費 | 価値が低かった。 | 最大の利益源。電力会社から高い電気を買うこと(25円~35円/kWh)を回避できる「節約額」が大きい。 |
収益の構造: 4.5kWシステムで試算すると、年間売電収入(16円/kWh)は約5.5万円ですが、年間自家消費による節約額(30円/kWhで回避)は約4.5万円となり、総経済効果(約10万円)を最大化することが重要です。
3. FIT終了後(卒FIT)の価格と対策
FITによる10年間の買取期間が終了すると、売電価格は大幅に下落します。
- 卒FIT価格: 大手電力会社では7円~9円/kWh程度、新電力でも9円~15円/kWh程度が相場となります。
- 最適な対策: 低価格で売電するよりも、自家消費にシフトすることが最も経済的です。
- 売電(7~15円/kWh)より、買電回避(25~35円/kWh)の方が圧倒的にメリットが大きいためです。
- このため、発電した余剰電力を夜間に利用するための蓄電池の導入が、長期的な経済的メリットを確保する鍵となります。
