
『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の要約
モルガン・ハウセル氏の著書『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』は、経済的な成功を収めるための実践的なアプローチを提示しています。この本は、市場を予測しようとするのではなく、継続的な投資と時間の力を通じて富を築くことの重要性を強調しています。
主な内容は以下の通りです。
市場予測の無意味さ:
多くの投資家が市場の動向を予測しようとしますが、ハウセル氏はこの試みがほとんどの場合で失敗に終わることを指摘しています。不確実性が高い市場において、予測は時間の無駄であり、むしろ感情的な判断を招きやすいと述べています。
1. 本質的な不確実性とランダム性
- 未来は予測不能: 経済、市場、そして企業を取り巻く環境は、無数の複雑な要因によって影響を受けます。政治情勢、技術革新、自然災害、消費者の嗜好変化など、これらの要因は互いに絡み合い、予測不可能な形で市場に影響を与えます。個々の事象がランダムに発生し、それが積み重なることで、全体の方向性が決定されることがあります。
- 「ブラックスワン」現象: 誰も予想できなかったような、極めて稀で大きな影響力を持つ出来事(ブラックスワン)が市場に突如現れることがあります。リーマンショックや新型コロナウイルスのパンデミックなどがその典型です。これらの事象は、これまでの予測モデルを一夜にして無効にしてしまうため、予測の限界を浮き彫りにします。
2. 情報の非対称性と市場の効率性
- 情報はすでに織り込まれている: 市場は非常に効率的であり、入手可能な情報は即座に株価に織り込まれる傾向があります。あなたが何か特別な情報を得たとしても、それはすでに多くの市場参加者によって評価され、価格に反映されている可能性が高いです。したがって、その情報に基づいて優位に立つことは極めて困難です。
- 専門家も予測できない: 投資銀行のアナリストや経済学者など、専門家でさえ市場を正確に予測することはできません。もし誰かが常に市場を予測できるのであれば、その人は莫大な富を築いているはずですが、そのような事例は稀です。彼らの予測が当たらないことの背景には、アンカリング効果(最初に与えられた数字に影響される)や、市場が感情によって動く側面があることなどが挙げられます。
3. 感情的な判断の誘発
- 予測への固執と過信: 一度予測を立てると、人はその予測に固執し、それが間違っている可能性を無視しがちです。また、過去にたまたま予測が当たった経験があると、自分の予測能力を過信し、リスクの高い行動に出てしまうことがあります。
- 市場の変動への過剰反応: 予測に基づいた投資は、市場が予測と異なる動きをした際に、パニック売りや焦って買い急ぐなどの感情的な判断を引き起こしやすいです。このような感情的な売買は、長期的な投資成果を損なう主要な原因となります。
4. コストと時間の無駄
- 情報収集と分析の時間と労力: 市場予測を試みるためには、膨大な情報収集と分析に時間と労力を費やす必要があります。しかし、その労力に見合うリターンが得られる保証はありません。
- 取引コストの発生: 予測に基づいて頻繁に売買を繰り返すことは、手数料や税金といった取引コストを増大させ、結果的に投資収益を圧迫します。
「時間」と「複利」の力:
本書の核心は、長期にわたる**「時間」が複利の効果を最大限に引き出す**という考え方です。少額からでも定期的に投資を続けることで、時間の経過とともに資産が雪だるま式に増えていくことを強調しています。市場の短期的な変動に一喜一憂せず、長期的な視点を持つことが成功の鍵です。
「時間」が複利の力を最大化する
複利の効果が最も顕著に現れるのが、「時間」が長く与えられた場合です。
1.指数関数的な成長:
複利の増え方は直線的ではなく、曲線的、つまり指数関数的です。初期段階では増加が緩やかに見えますが、ある時点を超えると急激に加速します。この「加速度」こそが、時間の力がもたらす複利の真髄です。
2.「72の法則」:
複利の効果を理解する上で非常に役立つのが「72の法則」です。これは、資産が倍になるのにかかるおおよその年数を簡易的に計算する方法で、**「72 ÷ 金利(年利%) = 資産が2倍になるまでの年数」**という式で表されます。
例1: 年利3%の場合、72 ÷ 3 = 24年で資産が2倍になる。
例2: 年利6%の場合、72 ÷ 6 = 12年で資産が2倍になる。
この法則からもわかるように、利回りが高いほど、または運用期間が長いほど、資産が倍になるまでの時間は短くなります。
3.若いうちから始める優位性:
複利効果は、早く始めれば始めるほど強力です。たとえ少額の投資であっても、若いうちから始めれば、引退する頃には投資を始めた時期が遅い人よりもはるかに大きな資産を築いている可能性が高いです。これは、単純な計算では想像できないほどの大きな差を生み出します。
例:
Aさん:25歳から毎月3万円を年利5%で35年間積み立て(60歳まで)
Bさん:40歳から毎月3万円を年利5%で20年間積み立て(60歳まで)
積立額はAさんの方が多いですが、AさんはBさんより15年早く複利効果の恩恵を受けられるため、最終的な資産額はAさんの方が格段に大きくなります。
4.市場のボラティリティへの耐性:
長期的な視点で投資を続けることで、市場の短期的な変動(ボラティリティ)を吸収しやすくなります。一時的な下落があっても、時間が経過すれば回復し、長期的な上昇トレンドに乗ることができる可能性が高まります。これは「ドルコスト平均法」とも相性が良いです。
複利の力を活用するためのポイント
- 早期開始: 少しでも早く投資を始めることが何よりも重要です。
- 継続的な投資: 市場の上げ下げに一喜一憂せず、定期的に(例:毎月)一定額を投資し続けることが大切です。
- 再投資: 得られた利益や分配金を消費せず、再投資に回すことで、複利効果を最大限に引き出します。
- 低コストのインデックスファンド: 複利効果を効率的に得るためには、手数料が低く、広範な市場に分散投資できるインデックスファンドが有効です。これにより、市場全体の成長の恩恵を享受できます。
「お金」を稼ぎ、貯蓄し、投資する:
富を築くためには、まず稼ぐ力を高め、次に無駄な支出を抑えて貯蓄に回し、そしてその貯蓄を継続的に投資するという一連のサイクルが重要です。特に、貯蓄率は投資のリターン以上に重要であると説いており、生活水準を上げすぎずに支出をコントロールすることの重要性を示唆しています。
1. 「お金を稼ぐ」 (Earn)
資産形成の最初のステップは、もちろん収入を得ることです。しかし、ハウセル氏が強調するのは、単に稼ぐこと以上の意味合いです。
- 収入源の確保と増加: 安定した本業からの収入は不可欠です。さらに、副業、転職による昇給、スキルアップによるキャリアアップなど、収入源を多様化したり、収入そのものを増やしたりする努力も重要です。収入が増えれば、その分貯蓄や投資に回せる金額も増え、資産形成のスピードを加速させることができます。
- 稼ぐ力の向上: 一度きりの収入だけでなく、継続的に稼ぐ力を高めることが大切です。これは、市場価値の高いスキルを習得したり、専門性を深めたりすることに繋がります。自分の労働力という「資産」の価値を高めることで、将来にわたる収入の安定と増加を目指します。
- 収入の多様化: 複数の収入源を持つことは、経済的なリスクを分散し、一つの収入源が途絶えた際のリスクを軽減します。例えば、本業の他にフリーランスの仕事、ブログ運営、アフィリエイト、株の配当金なども収入源となり得ます。
2. 「貯蓄する」 (Save)
稼いだお金をすべて使ってしまうと、投資に回すお金は生まれません。貯蓄は投資の「種銭」であり、その重要性は非常に高いです。
- 貯蓄率の最大化: ハウセル氏は、投資リターン以上に貯蓄率の重要性を説いています。いくら高い利回りで運用できたとしても、元となる貯蓄額が少なければ、得られる利益も小さくなります。収入が増えたとしても、それに合わせて生活水準を上げてしまう「ライフスタイル・インフレ」に陥らないことが重要です。
- 支出の管理と最適化: 貯蓄を増やすためには、収入を増やすだけでなく、支出を意識的に管理し、無駄をなくすことが不可欠です。家計簿をつける、固定費を見直す(家賃、通信費、保険料など)、衝動買いを避ける、といった行動がこれにあたります。
- 自動化の活用: 貯蓄を習慣化するためには、給料が入ったらすぐに一定額を貯蓄用口座や証券口座に自動的に移す「先取り貯蓄」が非常に有効です。これにより、残ったお金で生活する習慣がつき、意志の力に頼らずに貯蓄を進めることができます。
- 緊急資金の確保: 投資を始める前に、予期せぬ出費(病気、失業など)に備えるための緊急資金(生活費の3ヶ月〜6ヶ月分程度)を確保しておくことが推奨されます。これにより、不測の事態が発生しても、投資資産を取り崩す必要がなくなります。
3. 「投資する」 (Invest)
貯蓄したお金をただ銀行に置いておくだけでは、超低金利の現代では資産はほとんど増えません。お金に働いてもらうためには、投資が不可欠です。
- 複利の恩恵を最大化: 前述の通り、投資によって得られた利益を再投資することで、複利の力が働き、資産は指数関数的に増えていきます。これが、長期的に見て富を築く上での最も強力なエンジンとなります。
- リスクとリターンの理解: 投資にはリスクが伴いますが、リスクをゼロにすることはできません。重要なのは、自分が許容できるリスクの範囲内で、適切なリターンを目指すことです。長期・分散・積立投資は、リスクを管理しながらリターンを追求するための有効な戦略です。
- シンプルな戦略の採用: 複雑な個別株の売買や、市場予測に基づいた短期売買は、専門家でも成功が難しいとされています。ハウセル氏は、低コストのインデックスファンドへの長期積立投資のような、シンプルで再現性の高い戦略を推奨しています。
- 感情の排除: 投資においては、市場の変動に一喜一憂せず、感情に流されないことが極めて重要です。価格が下がったときに狼狽売りするのではなく、むしろ買い増しのチャンスと捉える冷静さが求められます。自動積立設定は、感情を排除し、淡々と投資を継続するのに役立ちます。
サイクルとしての「稼ぎ・貯蓄し・投資する」
これら三つの行動は、それぞれが独立しているのではなく、持続的なサイクルとして機能します。
- 稼ぐ: まずはキャッシュフローを生み出す。
- 貯蓄する: 生み出したキャッシュフローの一部を、将来の投資のためにプールする。
- 投資する: プールしたお金を市場に投じ、お金に働いてもらう。
- (再び)稼ぐ: 投資で得られたリターン(配当や売却益)を、再投資することで、さらに「稼ぐ」力を高める。そして、本業で稼ぐ努力も継続する。
投資の自動化:
感情的な判断を排除し、投資を継続するためには、自動積立などの仕組みを活用して投資プロセスを自動化することが推奨されています。これにより、市場の変動に左右されずに、淡々と投資を続けることができます。
投資における最大の敵の一つは、人間の感情です。市場の変動は投資家の感情を揺さぶり、以下のような誤った判断に繋がりがちです。
- 高値掴みと安値売り: 市場が上昇しているときに「乗り遅れてはいけない」と焦って高値で買い、市場が下落しているときに「これ以上損をしたくない」と恐怖に駆られて安値で売ってしまう。これは、投資で損失を出す典型的なパターンです。
- 市場予測への依存: 「明日株価は上がるだろう」「来月には景気が悪くなるから今は買うべきではない」などと市場を予測しようとし、その予測に基づいて売買のタイミングを計ろうとします。しかし、前述の通り市場予測は極めて困難であり、多くの時間と労力の無駄に終わります。
- 投資の停滞: 「今は投資のタイミングではない」「もう少しお金が貯まってから始めよう」などと先延ばしにしたり、そもそも投資に回すのを忘れてしまったりする。
投資の自動化は、これらの感情的な判断や機会損失を排除し、**「淡々と」「着実に」**投資を続けることを可能にします。
投資自動化の主なメリット
- 感情の排除: 最も大きなメリットです。設定したルールに基づいて機械的に投資が行われるため、市場のニュースや日々の変動に一喜一憂することなく、冷静な投資を継続できます。
- 継続性の確保: 毎月の積立設定などにより、投資を「習慣」として組み込むことができます。これにより、「投資し忘れた」「面倒だから後で」といった状況を防ぎ、長期的な投資を確実に実行できます。
- ドルコスト平均法の効果最大化: 定期的に一定額を投資することで、価格が高いときは少ない口数を買い、価格が低いときは多くの口数を買うことになり、平均購入単価を平準化する効果(ドルコスト平均法)が得られます。これを自動で行うことで、感情に流されずにこの効果を最大限に享受できます。
- 時間の節約: 個別の銘柄選定や売買のタイミングを毎日考える必要がなくなります。投資に割く時間を大幅に削減し、他の重要な活動(本業、スキルアップ、家族との時間など)に集中できます。
- 心理的な負担の軽減: 投資の判断に悩むストレスから解放され、精神的な負担が軽減されます。
投資自動化の具体的な方法
主な方法は以下の通りです。
- 証券口座の自動積立設定:
- 方法: 多くの証券会社では、毎月決まった日に、決まった金額で、特定の投資信託(特にインデックスファンド)を自動的に買い付ける設定が可能です。銀行口座から自動で引き落とされるように設定することもできます。
- 対象: 株式投資信託(インデックスファンド、アクティブファンド)、ETF(上場投資信託)など。
- 利点: 最も手軽で一般的な自動化の方法です。ドルコスト平均法の恩恵を最大限に受けられます。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)のような税制優遇制度と組み合わせることで、さらに効果が高まります。
- 財形貯蓄・社内預金(投資)制度:
- 方法: 会社が提供する制度で、給与から天引きで貯蓄や投資が行われるものです。
- 利点: 完全に自動化されており、手元にお金が来る前に貯蓄・投資されるため、使い過ぎを防げます。会社によっては奨励金が支給される場合もあります。
- ロボアドバイザー:
- 方法: AI(人工知能)が、個人のリスク許容度や目標に応じて最適な資産配分を提案し、その後の運用(銘柄選定、リバランスなど)もすべて自動で行ってくれるサービスです(例:WealthNavi、THEOなど)。
- 利点: 投資の専門知識がなくても、プロのような分散投資が可能です。ポートフォリオの定期的な見直し(リバランス)も自動で行われるため、手間がかかりません。
- 注意点: 手数料が一般的なインデックスファンド積立よりも高めに設定されていることがあります。
- 定期預金の自動積立:
- 方法: 毎月一定額を自動的に定期預金口座に積み立てる方法です。
- 利点: 元本保証であり、リスクが非常に低い点が特徴です。
- 注意点: 金利が非常に低いため、資産を増やすというよりは、緊急資金の確保や短期的な貯蓄に適しています。
投資自動化の注意点
- 設定後の見直し: 一度設定したら放置、ではなく、年に1回程度は自分の目標や市場環境の変化に合わせて設定内容を見直すことが重要です。
- 長期的な視点: 自動化された投資も、短期的な変動で成果が出るわけではありません。あくまで長期的な視点で、複利の力を信じて継続することが大切です。
- 無理のない金額設定: 毎月の積立額は、生活に支障が出ない範囲で、しかし最大限にできる金額を設定することが重要です。
シンプルな投資戦略:
複雑な投資戦略よりも、インデックスファンドへの長期的な積立投資のような、シンプルで低コストな戦略が推奨されています。多様な銘柄に分散投資されたインデックスファンドは、個別の企業リスクを軽減し、市場全体の成長の恩恵を受けることができます。
なぜシンプルが最強なのか?
複雑な戦略や市場予測に頼らないシンプルな投資戦略が推奨される理由は、以下の点に集約されます。
- 予測の不可能性: 前述の通り、市場の未来を正確に予測することは極めて困難です。プロの投資家でさえ、常に市場を出し抜くことはできません。複雑な戦略は、この不可能な予測を前提とするため、ほとんどの場合で失敗に終わります。
- 感情の排除: シンプルな戦略は、頻繁な意思決定を必要としないため、感情に流されるリスクを大幅に減らします。市場が上がっても下がっても、淡々と計画通りに実行するだけなので、高値掴みや安値売りといった失敗を防ぎやすいです。
- コストの削減: 複雑な戦略は、頻繁な売買を伴うことが多く、その都度手数料や税金が発生します。また、アクティブファンドのような高コストな商品を選ぶことにもつながりがちです。シンプルな戦略は、これらのコストを最小限に抑え、リターンを最大化します。
- 時間の効率化: 複雑な戦略は、情報収集や分析に膨大な時間を要します。シンプルな戦略は、一度設定すればほとんど手間がかからないため、時間を有効に活用できます。
シンプルな投資戦略の3つの柱
具体的に「シンプルな投資戦略」は、以下の3つの要素で構成されます。
1. 長期投資 (Long-Term Investing)
- 考え方: 短期的な市場の変動に惑わされず、数十年単位の長期的な視点で投資を行います。
- 理由:
- 複利効果の最大化: 時間が長ければ長いほど、複利の力が雪だるま式に効いてきます。
- 市場の成長トレンドに乗る: 株式市場は短期的に上下を繰り返しますが、長期的には経済成長とともに右肩上がりに成長する傾向があります。短期的なノイズを無視し、この長期的なトレンドの恩恵を受けます。
- ボラティリティの吸収: 短期的な暴落や調整局面があっても、長期的に保有することで、それらの影響を吸収し、回復を待つことができます。
- 実践: 一度投資したら、頻繁にポートフォリオを確認したり、売買したりする誘惑に打ち勝ち、原則として売却せずに保有し続けることです。
2. 分散投資 (Diversification)
- 考え方: 投資対象を単一の銘柄や資産クラスに集中させず、様々な銘柄、業種、地域、資産クラスに分散して投資することです。
- 理由:
- リスクの低減: 特定の企業が破綻したり、特定の業界や地域が不振に陥ったりした場合でも、他の投資先がカバーすることで、ポートフォリオ全体の損失を限定できます。
- 市場全体の成長の恩恵: 個別銘柄の選定はプロでも難しいため、幅広い銘柄に分散投資することで、市場全体の成長の果実を享受することができます。
- 実践:
- インデックスファンドの活用: 最も手軽で効果的な分散投資の方法です。S&P500(米国株式の主要500社)や全世界株式インデックス(先進国・新興国の株式に幅広く投資)のようなインデックスファンドは、これ一つで数百から数千の企業に分散投資ができます。
- 資産クラスの分散: 株式だけでなく、債券、不動産(REIT)、場合によっては金など、異なる値動きをする資産クラスに分散することも有効です。
3. 積立投資 (Dollar-Cost Averaging / Regular Investing)
- 考え方: 毎月、あるいは毎週など、定期的に決まった金額を投資していく方法です。
- 理由:
- ドルコスト平均法の効果: 価格が高い時には少なく、価格が低い時には多く購入することになり、結果として平均購入単価を平準化することができます。これにより、高値掴みのリスクを減らし、市場のタイミングを計る必要がなくなります。
- 感情の排除: 定期的に自動で買い付けが行われるため、「今買うべきか?」といった迷いや感情的な判断を排除できます。
- 習慣化: 投資を無理なく習慣として継続することができます。
- 実践: 証券会社の自動積立サービスを利用し、給与天引きや銀行口座からの自動引き落としを設定することが一般的です。NISAやiDeCoといった制度を活用することで、税制優遇も受けながら積立投資ができます。
シンプルな投資戦略の実践例
これらの要素を組み合わせた具体的な戦略は、以下のようになります。
- 毎月、給与から一定額を自動で引き落とし、低コストの全世界株式インデックスファンド(またはS&P500インデックスファンド)に積み立てる。
- 一度設定したら、特別な理由がない限り、売買はせず、数十年間保有し続ける。
- 市場が大きく下落しても、積立を止めずに継続する(むしろ安く買えるチャンスと捉える)。
心理的要因の克服:
投資における最大の障壁は、市場の変動に対する不安や恐怖といった人間の心理的な側面であると指摘しています。市場の暴落時でもパニックにならず、冷静に投資を継続する精神的な強さが求められます。
なぜ心理的要因が問題なのか?
人間の脳は、進化の過程で「生存」に特化してきました。危険を察知し、即座に行動する能力は、原始時代には役立ちましたが、予測不能な市場においては裏目に出ることが多々あります。
投資における主な心理的バイアス(偏り)は以下の通りです。
- 損失回避バイアス: 利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛の方が大きく感じられる傾向です。このため、含み損を抱えた銘柄を損切りできずに塩漬けにしたり、小さな損失を恐れて利益をすぐに確定してしまったりします。
- プロスペクト理論: 損失を避けようとする心理が、リスクの取り方に影響を与えるという理論です。人は、利益が出ているときはリスクを回避し、損失が出ているときはリスクを冒しやすい傾向があります。
- 群集心理(バンドワゴン効果): 多くの人が買っているから自分も買う、多くの人が売っているから自分も売る、という集団の行動に流される傾向です。これが、バブルと崩壊の一因となります。
- 確証バイアス: 自分の考えや予測を裏付ける情報ばかりを集め、反証する情報を無視する傾向です。これにより、誤った投資判断を固執してしまいます。
- 後知恵バイアス: 結果が明らかになった後に、「やはりそうなると思っていた」と、まるで予測できたかのように感じることです。これにより、自分の予測能力を過信し、次の投資で過度なリスクを取る可能性があります。
- サンクコストの誤謬: すでに投じた時間やお金(サンクコスト)を惜しむあまり、合理的な判断ができないことです。損失が出ている投資を「今までかけたお金が無駄になる」という理由で売却できないなどが典型です。
これらの心理的バイアスは、投資家が高値で買って安値で売るという、最も避けるべき行動パターンに陥る主要な原因となります。
心理的要因を克服するための戦略
ハウセル氏は、これらの心理的落とし穴を避けるために、具体的な戦略を提示しています。
- 投資目標の明確化と再確認:
- なぜ投資しているのか? いつまでに、いくら必要で、何のためにそのお金を使うのかを具体的に設定します。明確な目標があれば、市場の短期的な変動に惑わされにくくなります。
- 「長期」の意識: 投資は短期的なゲームではなく、長期的なマラソンであるという認識を常に持ち続けることが重要です。
- 自動化の活用:
- 「投資の自動化」は、心理的要因を克服する上で最も強力なツールです。毎月の自動積立設定は、市場の上げ下げに関わらず、機械的に買い付けを継続します。これにより、高値で買うのをためらったり、安値で買うのを怖がったりする感情的な判断が排除されます。
- 一度設定すれば、あとは基本的に放置で良いため、頻繁に市場をチェックする必要がなくなり、ストレスも軽減されます。
- ドルコスト平均法の徹底:
- 定期的に一定額を投資することで、市場が好調なときは少なく、不調なときは多く買うことになります。これにより、平均取得単価が平準化され、市場のタイミングを計る必要がなくなります。「今が買い時か?」という心理的なプレッシャーから解放されます。
- 市場の歴史と不確実性の理解:
- 市場は常に変動するもの: 歴史的に見て、株式市場は短期的には暴落も経験しますが、長期的には成長してきました。この事実を理解していれば、一時的な下落にも冷静に対応できます。
- 予測は不可能であると認識する: 自分の力では市場を予測できないという謙虚さを持つことが重要です。予測しようとすること自体がストレスや誤った判断の元になります。
- 適切なポートフォリオの構築とリバランス:
- リスク許容度を知る: 自分がどの程度の損失なら精神的に耐えられるのかを把握し、それに見合ったリスクレベルのポートフォリオを組みます。無理なリスクを取ると、市場が少し動いただけでパニックに陥りやすくなります。
- 定期的なリバランス: 資産配分が崩れてきたら、定期的に(年に1回など)見直して、元の比率に戻します。これは、心理的な誘惑に打ち勝ち、当初の計画に戻るための機械的なプロセスとなります。
- 感情的な衝動にブレーキをかける:
- 情報過多を避ける: 投資に関するニュースやSNSの情報を過度に摂取しないようにします。特に、煽り立てるような情報や専門家の短期的予測は、感情を揺さぶる原因になります。
- 「24時間ルール」: 重要な売買判断を下す前に、24時間待つ、といったルールを設けるのも有効です。衝動的な行動を避け、冷静になる時間を与えます。
この本は、市場を出し抜こうとするのではなく、地道に稼ぎ、貯蓄し、そして時間を味方につけて継続的に投資するという、極めてシンプルかつ強力な富裕層への道を提示しています。投資における感情的な判断を排除し、**「Just Keep Buying」(ただ買い続けろ)**というメッセージを通じて、多くの人が経済的な自由を達成するための実践的な指針を与えてくれる一冊です。
今回要約した本: