
「つい不健康な行動をとってしまう」「人生の選択に迷いがある」―そうした行動や悩みの裏には、「本当に大切にしたい価値観」と「現在の行動」との間に存在する矛盾(ギャップ)が潜んでいることが少なくありません。本記事で解説する「Personal Values Card Sort(個人的価値観カードソート)」は、動機づけ面接(MI)の権威であるウィリアム・R・ミラーらによって考案された、自己のコア・バリューを明確にするための強力な心理学的ツールです。約80種類の価値観が書かれたカードを分類し、その優先順位を決定するプロセスを通じて、参加者は自分を導く真の原則を見つけ出します。このカードソートが、どのようにして行動変容を促し、より価値観に沿った豊かな人生へと導くのか、その目的、手順、そして臨床での応用例を詳しく見ていきましょう。
Personal Values Card Sortの概要
- 目的: 参加者が自分にとって最も重要で中心となる価値観を特定し、その価値観と現在の行動(特に問題となる行動、例えば飲酒など)との間の矛盾を探ることを目的としています。
- 作成者: ウィリアム・R・ミラー(William R. Miller)らニューメキシコ大学の共同研究者たちによって作成されました。ミラー博士は、行動変容を促す心理療法である動機づけ面接(Motivational Interviewing: MI)の創設者の一人として知られています。
- 構成: 一般的に、70〜80種類以上の個人的価値観(例:「家族」「友情」「正直」「達成」など、リストで提示されたようなもの)が書かれたカードセットを使用します。
価値観リスト
| 価値観 | 説明 |
| 受容 | ありのままの自分を受け入れてもらう |
| 正確 | 自分の意見や信念を正しく伝える |
| 達成 | なにか重要なことを達成する |
| 冒険 | 新しくてワクワクする体験をする |
| 魅力 | 身体的な魅力を保つ |
| 権威 | 他者に対して責任を持って指導する |
| 自治 | 人まかせにしないで自分で決める |
| 美的 | 身のまわりの美しいものを味わう |
| 庇護 | 他者のめんどうをみる |
| 挑戦 | 難しい仕事や問題に取り組む |
| 変化 | 変化に富んだバラエティ豊かな人生を送る |
| 快適 | 喜びに満ちた快適な人生を送る |
| 誓約 | 絶対に破れない約束や誓いを結ぶ |
| 慈愛 | 他者を心配して助ける |
| 貢献 | 世界の役に立つことをする |
| 協調 | 他者と協力して何かをする |
| 礼儀 | 他者に対して誠実で礼儀正しく接する |
| 創造 | 新しくて斬新なアイデアを生む |
| 信頼 | 信用があって頼れる人間になる |
| 義務 | 自分の義務と責任を果たす |
| 調和 | 周囲の環境と調和しながら生きる |
| 興奮 | スリルと刺激に満ちた人生を送る |
| 貞節 | パートナーにウソをつかず誠実に生きる |
| 名声 | 有名になって存在を認められる |
| 家族 | 幸福で愛に満ちた家庭を作る |
| 体力 | 丈夫で強い身体を保つ |
| 柔軟 | 新たな環境にも簡単になじむ |
| 許し | 他人を許しながら生きる |
| 友情 | 親密で助け合える友人を作る |
| 愉楽 | 遊んで楽しむこと |
| 寛大 | 自分の物を他人にあたえる |
| 真実 | 自分が正しいと思うとおりに行動する |
| 信教 | 自分を超えた存在の意思を考える |
| 成長 | 変化と成長を維持する |
| 健康 | 健やかで体調よく生きる |
| 有益 | 他人の役に立つこと |
| 正直 | ウソをつかず正直に生きる |
| 希望 | ポジティブで楽観的に生きる |
| 謙遜 | 地味で控えめに生きる |
| 笑い | 人生や世界のユーモラスな側面を見る |
| 独立 | 他者に依存しないで生きる |
| 勤勉 | 自分の仕事に一生懸命取り組む |
| 平安 | 自分の内面の平和を維持する |
| 親密 | プライベートな体験を他人とシェアする |
| 正義 | すべての人を公平に扱う |
| 知識 | 価値ある知識を学ぶ、または生み出す |
| 余暇 | 自分の時間をリラックスして楽しむ |
| 寵愛 | 親しい人から愛される |
| 愛慕 | 誰かに愛をあたえる |
| 熟達 | いつもの仕事・作業に習熟する |
| 現在 | いまの瞬間に集中して生きる |
| 適度 | 過剰を避けてほどよいところを探す |
| 単婚 | 唯一の愛し合える相手を見つける |
| 反抗 | 権威やルールに疑問を持って挑む |
| 配慮 | 他人を心づかって世話すること |
| 開放 | 新たな体験、発想、選択肢に心を開く |
| 秩序 | 整理されて秩序のある人生を送る |
| 情熱 | なんらかの発想、活動、人々に深い感情を抱く |
| 快楽 | 良い気分になること |
| 人気 | 多くの人に好かれる |
| 権力 | 他人をコントロールする |
| 目的 | 人生の意味を方向性を定める |
| 合理 | 理性とし、論理に従う |
| 現実 | 現実的、実践的にふるまう |
| 責任 | 責任をもって行動する |
| 危険 | リスクを取ってチャンスを手に入れる |
| 恋愛 | 興奮して燃えるような恋をする |
| 安全 | 安心感を得る |
| 受諾 | ありのままの自分を受け入れる |
| 自制 | 自分の行動を自分でコントロールする |
| 自尊 | 自分に自信を持つ |
| 自知 | 自分について深い理解を持つ |
| 献身 | 誰かに奉仕する |
| 性愛 | 活動的で満足のいく性生活を送る |
| 単純 | シンプルでミニマルな暮らしをする |
| 孤独 | 他人から離れて1人でいられる時間と空間を持つ |
| 精神 | 精神的に成長し成熟する |
| 安定 | いつも一定して変化のない人生を送る |
| 寛容 | 自分と違う存在を尊重して受け入れる |
| 伝統 | 過去から受け継がれてきたパターンを尊重する |
使用方法とプロセス
Personal Values Card Sortの一般的な実施手順は以下の通りです。
- 価値観の分類: 参加者はカードデッキを受け取り、各カードに書かれた価値観が自分にとってどの程度重要かに基づいて、通常3〜5つの山(例:「全く重要ではない」「やや重要」「重要」「非常に重要」「最も重要」)に素早く分類します。
- 上位価値観の特定: 分類された山の中から、自分にとって最も重要(コア・バリュー)な5〜10個程度の価値観を選び出します。
- 優先順位付け: 選ばれた上位の価値観を、最も重要度の高いものから順にランク付けします。
- 対話と探求: 価値観のソートとランク付けが終わった後、カウンセラーやファシリテーターは参加者に対して、選んだ価値観の意味、それがなぜ重要なのか、そしてその価値観が日常生活でどのように体現されているのかについて、オープンな質問を通じて深く話し合います。
- この対話の段階が特に重要であり、参加者の自己理解と、価値観に沿った行動への動機づけを高めるために利用されます。
臨床的応用
このカードソートは、特に以下の分野で広く利用されています。
- 動機づけ面接(MI): クライアントが自分の価値観を明確にすることで、行動変容(例:薬物乱用の減少、健康的な生活習慣の採用など)への動機を高めるプロセスを促進するために用いられます。
- 自己認識: 人生において自分を導く原則や優先事項についての理解を深めます。
- 意思決定: 自分の核となる価値観に沿った決定を下すための指針を得るのに役立ちます。
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