
うつ病の人への接し方は非常にデリケートです。良かれと思ってかけた言葉が、かえって相手を追い詰めてしまうこともあります。たとえば、「頑張って」「ポジティブに考えて」といった安易な励ましは、本人が一番そうしたいのにできない状況にあるため、逆効果になることが多いのです。
ご友人としてできることは、何かを「してあげる」ことよりも、「ただそばにいる」ことです。
うつ病の人への接し方
1. 話を「聞く」ことに徹する
無理にアドバイスをしたり、解決策を探したりする必要はありません。大切なのは、ご友人が話したいと思った時に、ただじっくりと話を聞いてあげることです。「そうなんだね」「辛かったね」と、相手の気持ちを否定せずに受け止めるだけで、ご友人は「自分の気持ちを分かってくれる人がいる」と感じ、それだけで心が軽くなるものです。もしご友人が話したくないようであれば、無理に聞き出そうとせず、そっとしておく優しさも必要です。
2. 「いつでもあなたの味方だよ」というメッセージを伝える
うつ病の時は、強い孤独感に苛まれがちです。「自分は一人じゃないんだ」と思えることは、何よりの支えになります。「無理にとは言わないけど、もし誰かと話したくなったら、いつでも連絡してね」と伝えておくことで、相手にプレッシャーをかけず、いつでも繋がれる選択肢があることを示してあげることができます。
3. 「断ってもいい」選択肢を提示する
ご友人を誘う際は、「断る権利」をはっきりと与えることが非常に重要です。例えば、「もし気が向いたらでいいんだけど、近くのカフェでお茶でもしない?もちろん、気分じゃなかったら全然断ってくれて構わないからね」というように誘ってみましょう。これは、相手も自分も尊重する「アサーティブコミュニケーション」という考え方に基づいています。相手が「NO」と言いやすい環境を作ってあげることが、本当の優しさです。
4. 専門家への受診を優しく勧める
症状が重そうであれば、専門家である医師に相談することを優しく勧めることも大切です。「心配だから、一度話だけでも聞きに行ってみない?」と、一緒に付き添う姿勢を見せるのも良いでしょう。
あなたがご友人の病気を「治してあげる」必要はありません。ただ、安全な港のように静かに寄り添い、ご友人のペースを尊重してあげること。それが、今ご友人が最も必要としているサポートかもしれません。
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アサーティブコミュニケーションについて
アサーティブコミュニケーションとは、「相手のことも自分のことも尊重しながら、自分の意見や気持ちを誠実に、率直に伝えるコミュニケーションの方法」です。
単なる自己主張(アグレッシブ)でも、相手に合わせすぎること(ノンアサーティブ)でもありません。
アサーティブコミュニケーションの3つのタイプ
アサーティブコミュニケーションを理解する上で、以下の3つのタイプを比較すると分かりやすいです。
- アグレッシブ(攻撃的)
- 自分の意見や要求を一方的に押し通そうとするタイプ。
- 相手を論破しようとしたり、高圧的な態度を取ったりします。
- 結果として、相手との関係性を損ない、ストレスや不満を生みやすいです。
- ノンアサーティブ(非主張的)
- 自分の意見や感情を抑え込み、相手の意見を優先してしまうタイプ。
- 「どうせ言っても無駄だ」「雰囲気を悪くしたくない」といった思いから、本音を言えずに我慢します。
- 結果として、自分の不満が溜まりやすく、ストレスを感じやすくなります。
- アサーティブ
- 自分も相手も大切にする、理想的なコミュニケーションの形です。
- 相手の意見を尊重しながらも、自分の意見や気持ちを正直に伝えます。
- 「Win-Win」の関係を築きやすく、お互いが納得できる結論を目指します。
アサーティブコミュニケーションの4つの柱
アサーティブなコミュニケーションを実践するためには、以下の4つの要素が重要とされています。
- 誠実
- 自分自身に正直になり、相手にも誠実な態度で向き合うこと。
- 嘘やごまかしのない態度が、信頼関係を築きます。
- 率直
- 遠回しな表現ではなく、自分の意見や気持ちをストレートに伝えること。
- ただし、相手を不快にさせないような丁寧な言葉遣いを心がけます。
- 対等
- 立場や上下関係に関わらず、相手と対等な姿勢で向き合うこと。
- 「上から目線」でも「卑屈」でもなく、一人の人間として尊重し合います。
- 自己責任
- 自分の発言や行動、そしてその結果に責任を持つこと。
- 言いたいことを言ったことの責任、あるいは言わなかったことの責任を自分で引き受けます。
アサーティブコミュニケーションは、生まれ持った性格ではなく、訓練によって身につけられるスキルです。これにより、人間関係を円滑にし、自分も相手もストレスを抱えずに良好な関係を築くことができます。