アメリカで行われていた「双子・三つ子を意図的に引き離して別々の家庭で育てる」研究の結果について

「ルイス・ワイス(Louise Wise Services)」というニューヨークの養子縁組機関が関係した“分離双子研究”(Twin Separation Study) 。
これは実際にアメリカで行われていた、倫理的に非常に問題のある「双子・三つ子を意図的に引き離して別々の家庭で育てる」研究です。


概要

  • 期間:1950年代〜1970年代
  • 場所:アメリカ・ニューヨーク中心
  • 主導:精神分析医 ピーター・ヌイバウアー(Peter Neubauer) と「ルイス・ワイス養子縁組機関(Louise Wise Services)」
  • 対象:双子・三つ子など複数の養子に出されるユダヤ系の子どもたち(主に孤児)

実験の内容

研究者たちは、遺伝と環境の影響を比較するために、双子や三つ子を意図的に別々の家庭に養子に出し、以下のような環境差をつけました:

  • 一方を裕福な家庭
  • もう一方を中流または労働者階級の家庭

研究チームはその後、定期的に心理テストや観察を行い、子どもたちの発達・性格・知能・行動などを記録しました。
親たちは「養子研究の一環」とだけ説明され、双子・三つ子が存在することは知らされませんでした


倫理的問題

  • 養子縁組家庭も子ども本人も、兄弟姉妹が存在することを知らされなかった
  • 子どもたちは成人後に偶然出会い、自分が双子(三つ子)だったことを知るというケースもありました。
  • この実験は被験者の同意なしに行われた極めて非倫理的な行為とされています。
  • 当時のデータは、ヌイバウアーの死後にイェール大学に封印され、2065年まで公開されないとされています。

関連作品

  • 『Three Identical Strangers』(2018)
    実際にこの実験の犠牲者となった**三つ子(ボビー・シャフラン、エディ・ガラン、デビッド・ケルマン)**の実話ドキュメンタリー。
    生まれてすぐに引き離され、異なる家庭で育てられた彼らが成人後に偶然出会い、自分たちが実験対象だったことを知るまでを描いています。

目的と結果

研究の主な目的は「遺伝と環境のどちらが人間の性格形成に影響するか」を調べることでした。
しかし、結果は正式には公表されていません
一部の資料からは、育った環境によって性格や精神的な健康に差が出たことが示唆されていますが、
研究手法そのものが非倫理的だったため、科学的成果としては認められていません。

以下に、入手可能な情報からわかっている範囲で、育った環境による差や共通点を整理します。

1. 性格や行動傾向の違い

ヌイバウアーのチームは、裕福・中流・労働者階級といった異なる家庭環境に子どもを分けて育てました。

環境による差として観察されたもの(非公式記録)

被験者や元調査員の証言、そしてドキュメンタリー『Three Identical Strangers』などで報告された主な傾向です:

比較項目裕福な家庭中流/労働者階級の家庭
自己表現自信があり、社交的でリーダーシップ傾向より控えめ、自己主張が弱い
教育・進学意欲高い教育意識、進学率が高い現実的・早期就労志向が強い
情緒の安定一見安定して見えるが、プレッシャーや完璧主義が強い傾向より衝動的だが、感情表現が自然
親との関係養親との距離がやや形式的養親との情緒的な結びつきが強い傾向

2. 精神的健康面の影響

被験者たちの中には、精神的な問題(うつ・不安・アイデンティティの混乱)を抱えた人が多かったとされています。

被験者の証言や調査記録から見られた傾向

  • 双子・三つ子に共通して うつ病・双極性障害などの精神疾患が見られたケース が多い。
    → これは遺伝的要因と、引き離しによる心理的ストレスの両方が影響した可能性。
  • 「自分の一部が欠けているような感覚」を持つと語った被験者もいる。
  • 一部の被験者は、青年期以降に依存症や自殺未遂などの問題を抱えた。
    (ドキュメンタリーに登場する三つ子の一人・エディ・ガランも自殺しています。)

3. それでも残った「遺伝の強さ」

驚くべきことに、環境がまったく違っても、
双子・三つ子たちは成長後に出会った際、次のような驚くべき共通点を示しました:

  • 同じ仕草・笑い方・好み・趣味
  • 同じブランドの服を好む
  • 同じタイプの女性を好きになる
  • 喫煙の仕方や姿勢まで似ていた

これらの一致は「遺伝的要素の強さ」を裏づける例としても引用されています。


4. 研究者側の見解(後の分析)

研究を主導したヌイバウアー本人は晩年、
環境の影響は無視できないが、性格の多くは遺伝的に決まっている
と語ったとされています(ただし公式論文は未発表)。

しかし、その結論に科学的価値があるかどうかは疑問視されています。
理由は、被験者数が少なく、同意なしの実験だったため倫理的にも再現できないからです。


まとめ

入手可能な情報からわかっている範囲で、育った環境による差や共通点についてまとめます。

観点主な結果・傾向
性格家庭環境により自信・社交性・表現力などに差が出た
精神的健康うつ病・不安・孤独感などの問題が共通して見られた
遺伝行動・嗜好・身体的特徴の一致が多く、遺伝の影響が強いことも示唆された
結論「遺伝と環境の両方が強く影響する」ことを裏づけたが、実験方法は倫理的に断罪されている