不動産業、物品賃貸業の離職率が高いのはなぜ? 「過酷な営業ノルマ」「不安定な収入」「土日の勤務」の構造を解説

不動産業、物品賃貸業は、特に営業職において離職率が高い傾向にあります。その背景には、成果主義に基づく厳しい営業ノルマ、顧客対応のための長時間労働、そして景気や市場の変動に収益が左右される不安定さがあります。本記事では、この業界で特に離職率が高くなってしまう要因を、「労働条件」「待遇」「業務負担」「キャリア形成」の4つの観点から詳細に解説します。


不動産業、物品賃貸業の離職率(参考データ)

この業界の離職率は、全産業平均より高い水準で推移しています。

区分不動産業, 物品賃貸業の離職率全産業の平均離職率
通年の離職率(年次)17.9%(令和4年)15.0%(令和4年)
新規大卒就職者の 3年以内離職率45.0%(令和4年3月卒業者)33.8%(令和4年3月卒業者)
新規高卒就職者の 3年以内離職率52.2%(令和4年3月卒業者)37.9%(令和4年3月卒業者)

1. 労働時間の問題(顧客に合わせた長時間労働と不規則性)

顧客の都合に合わせて動く必要があるため、労働時間が不規則になりがちで、長時間労働が常態化しやすいです。

  • 土日祝日の勤務:
    • 不動産の内見や契約、物品の納品や返却は、顧客の休日に集中するため、土日祝日の勤務が必須となります。
    • 平日に休みが集中しやすく、一般生活者との予定調整が困難になることがあります。
  • 長時間労働の常態化:
    • 営業活動の長時間化: 契約獲得のため、顧客への対応、物件の調査、資料作成、移動時間などが積み重なり、長時間労働になりやすいです。
    • 特に繁忙期(不動産賃貸業の1~3月など)は、業務量が極端に増大し、残業時間が大幅に増加します。

2. 待遇の問題(不安定な収入と成果主義の厳しさ)

成果主義が強く、給与が不安定になりやすい構造と、固定給部分の低さが離職の大きな要因となります。

  • 不安定な給与構造:
    • 高額なインセンティブと低い固定給: 営業職は、契約を取れば高額な歩合(インセンティブ)が得られる一方で、固定給が低く設定されていることが多く、契約が取れないと生活が不安定になります。
    • 景気変動の影響: 不動産売買や高額な物品賃貸は景気に左右されやすく、市場の状況によって収入が大きく変動します。
  • 経費の自己負担:
    • 契約獲得に必要な接待費用や、営業に使用する車の維持費などを、一部自己負担にしている企業があり、実質的な手取りを圧迫します。
  • 有給休暇の取得の困難さ:
    • 自身の担当顧客への対応や、ノルマ達成のプレッシャーから、業務を離れることへの心理的抵抗が大きくなります。

3. 業務負担と精神的ストレス(過酷なノルマと専門知識)

営業ノルマのプレッシャーと、顧客との交渉からくる精神的なストレスが極めて大きいです。

  • 厳しい営業ノルマのプレッシャー:
    • 月ごと、四半期ごとなど、達成必須のノルマが課せられ、未達の場合は上司からの厳しい指導や査定への影響が精神的な大きな負担となります。
    • 特に不動産売買では扱う金額が大きいため、プレッシャーも増大します。
  • 高度な専門性と責任:
    • 不動産や物品の法律、税務、契約に関する高度な専門知識を常に学び続ける必要があります。
    • 契約の不備が顧客の大きな不利益に繋がるため、責任感が重くのしかかります。
  • 人間関係と競争:
    • 競争の激しい成果主義の職場では、社内の人間関係が希薄になったり、ライバル意識が強すぎたりすることが、ストレスにつながります。

4. キャリア形成・教育体制の問題

即戦力が求められる一方で、体系的な教育がない場合、早期離職につながります。

  • 即戦力志向による教育不足:
    • 「まずはとにかく現場でやってみろ」というスタンスの企業が多く、体系的な研修や教育体制が不十分なことがあります。
    • 特に宅地建物取引士などの資格取得のサポートが十分でない場合、知識を身につける負担が大きくなります。
  • キャリアパスの極端さ:
    • 成功すれば管理職や役員、独立開業といった道が開けますが、成果が出なければ居場所がなくなるという、極端なキャリアパスしか見えない場合があります。
    • ノルマ達成がすべてという環境で、組織への貢献や後進の育成といったキャリアが見えにくいことがあります。

負の連鎖の構造

不動産業、物品賃貸業では、「固定給が低く不安定な収入→ノルマ未達による精神的プレッシャー→高い専門知識と長時間の顧客対応→成果が出ない人材の早期離職」という負の連鎖が発生しています。特に、ノルマ達成という単一の評価軸に耐えられず、キャリア初期の段階で多くが市場から退出してしまうのが特徴です。

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