人工呼吸器の二次合併症について

人工呼吸器の使用に伴う二次合併症には、さまざまなものがあります。これらの合併症は、人工呼吸器を使用する期間が長くなるほど発生リスクが高くなることが一般的です。以下に、主な二次合併症を説明します。

1. 人工呼吸器関連肺炎(VAP: Ventilator-Associated Pneumonia)

  • 概要: 人工呼吸器を使用している患者が、人工呼吸器装着後48時間以上経過してから発症する肺炎。
  • 原因: 気管チューブの挿入によって、口腔内や鼻腔内の細菌が肺に侵入しやすくなるため。
  • 予防: 頭を30~45度に挙上する、適切な口腔ケアを行う、早期の人工呼吸器離脱を図る。

2. 気管損傷

  • 概要: 気管チューブやカフの圧迫によって、気管や声帯が損傷を受けること。
  • 原因: 長期間の気管チューブ挿入、過度なカフ圧。
  • 予防: カフ圧を適切に管理する、必要に応じて気管切開を検討する。

3. 気胸

  • 概要: 肺の過膨張による肺胞の破裂が原因で、空気が胸膜腔に漏れ、肺が圧迫される状態。
  • 原因: 高圧の人工呼吸や肺のコンプライアンス(伸展性)の低下による。
  • 予防: 適切な呼吸圧の設定、定期的な胸部画像診断で早期発見を目指す。

4. 呼吸器関連の筋力低下(Ventilator-Induced Diaphragm Dysfunction, VIDD)

  • 概要: 長期にわたる人工呼吸器の使用により、横隔膜などの呼吸筋が弱くなる状態。
  • 原因: 長期間の人工呼吸器依存による呼吸筋の廃用性萎縮。
  • 予防: 可能な限り早期の自発呼吸の促進や、間欠的な自発呼吸モードの使用。

5. バーラトラウマ(Barotrauma)

  • 概要: 人工呼吸器による過度な気道内圧が原因で、肺組織が損傷する状態。
  • 原因: 高圧換気や過膨張。
  • 予防: 適切な換気圧の設定(ピーク気道内圧を30cmH2O以下に設定するなど)、慎重なモニタリング。

6. オートPEEP(Auto-PEEP)

  • 概要: 呼気が完全に終了する前に次の吸気が始まることで、胸腔内圧が上昇し続ける状態。
  • 原因: 過度に高い呼吸数や吸気時間が短い設定。
  • 予防: 呼気時間を適切に確保する、必要に応じてPEEP(呼気終末陽圧)の設定を見直す。

7. 酸素中毒

  • 概要: 高濃度酸素の長期間吸入により、肺や中枢神経系にダメージが生じる状態。
  • 原因: 高濃度酸素の過剰投与(FiO2 60%以上の長期使用)。
  • 予防: 酸素濃度を必要最低限に設定し、低酸素血症を防ぐ範囲で酸素濃度を徐々に下げる。

8. 心血管系への影響

  • 概要: 陽圧換気が循環動態に影響を与え、静脈還流の減少や心拍出量の低下を引き起こすこと。
  • 原因: 高いPEEPや過度な換気圧。
  • 予防: 適切な換気設定と循環動態の継続的なモニタリング。

9. 栄養不良

  • 概要: 人工呼吸器管理中の患者が、適切な栄養を摂取できないことで発生する栄養不良。
  • 原因: 経口摂取が制限されることや、代謝状態の変化。
  • 予防: 早期の栄養サポート(経腸栄養や経静脈栄養)を適切に開始する。

10. 心理的合併症

  • 概要: 人工呼吸器使用中や離脱後に、患者が経験する不安、抑うつ、せん妄などの精神的ストレス。
  • 原因: 長期間の人工呼吸器依存やICU環境。
  • 予防: 患者とのコミュニケーションを図り、精神的ケアを行う。

まとめ

人工呼吸器の使用は患者の命を救う一方で、さまざまな二次合併症のリスクも伴います。これらのリスクを軽減するためには、適切な機械設定と定期的なモニタリング、早期の自発呼吸の促進、患者に応じた個別のケアが不可欠です。合併症の予防と管理に努めることで、人工呼吸器を使用する患者の予後を改善することが期待されます。