ASV(Adaptive Support Ventilation)は、人工呼吸器の高度なモードであり、患者の呼吸パターンをリアルタイムで監視し、それに基づいて自動的に呼吸サポートを最適化するものです。このモードは、患者の呼吸努力を支援しながら、必要に応じて換気を調整するため、様々な呼吸状態の患者に対応できる柔軟なモードです。
ASVモードの特徴
- 自動調整機能:
- ASVは患者の肺の力学(コンプライアンスや抵抗)やガス交換の状態を常にモニターし、最適な換気を提供するように圧力サポートや呼吸数を自動調整します。
- 患者が自発呼吸をしている場合、その努力をサポートし、呼吸が不十分な場合は人工呼吸器が介入してサポートを強化します。
- ターゲット換気量の設定:
- 患者の体重や病態に基づいて、理想的な一分間換気量(ターゲット分時換気量)を設定し、それに基づいて換気が調整されます。このターゲット換気量は、過換気や低換気を防ぐために重要です。
- 安全性の確保:
- ASVは、過度な圧力やボリュームによる肺損傷を防ぐため、設定された安全範囲内で呼吸をサポートします。また、過度な二酸化炭素の蓄積や酸素不足を防ぐために換気を自動で調整します。
- 幅広い適応範囲:
- ASVは、急性呼吸不全から慢性呼吸不全、術後の呼吸管理、重症呼吸器疾患など、さまざまな呼吸状態の患者に対応可能です。
ASVモードの設定パラメータ
- ターゲット分時換気量(Target Minute Ventilation):
- 患者の理想的な一分間換気量(通常は4~8L/分)を設定します。ASVはこの換気量を維持するように調整を行います。
- PEEP(Positive End-Expiratory Pressure):
- 呼気終了時に肺を開いた状態に保つための圧力を設定します。通常、5~10 cmH2Oが設定されます。
- FIO2(酸素濃度):
- 供給される酸素の濃度を設定します。患者の酸素化状態に応じて21%(室内空気)から100%まで調整可能です。
- 安全限界設定:
- 圧力や換気量の最大・最小限界を設定し、これを超えないようにします。これにより、過度な圧力や換気による肺損傷を防ぎます。
ASVの利点
- 患者に合わせた柔軟なサポート: 患者の呼吸状態に応じてリアルタイムで換気を調整し、過換気や低換気を防ぐことができます。
- 簡単な管理: 患者ごとの複雑な設定を必要とせず、ターゲット換気量や基本的な設定のみで適切な換気を提供できます。
- 肺保護戦略の一環: 過度な圧力や換気による肺損傷を避け、患者の肺に優しい換気を提供します。
ASVの注意点
- 適応患者の選択: ASVは多くの患者に適応できますが、自発呼吸が非常に弱い患者や、特定の呼吸パターンを持つ患者に対しては適切なサポートが提供できない場合があります。(呼吸数過多になってしまう場合等)
- 設定の微調整が必要な場合: 一部の患者では、ASVの自動調整が十分でないことがあり、特別な調整が必要な場合があります。
- 臨床判断の補完: ASVは非常に高度なモードですが、臨床医の判断を補完するものであり、完全に代替するものではありません。患者の状態を継続的に監視し、必要に応じて介入する必要があります。
まとめ
ASVモードは、患者の呼吸パターンをリアルタイムでモニタリングし、それに応じて最適な呼吸サポートを提供する高度な人工呼吸モードです。特に、急性および慢性の呼吸不全患者に対して広く使用され、肺保護を重視しつつ、効率的なガス交換を促進します。設定が比較的シンプルでありながら、自動的に患者に適応するため、臨床現場での使用が拡大しています。ただし、適切な患者選択とモニタリングが重要であり、状況に応じた介入が必要です。