
保育士は、未来を担う子どもたちの成長を支える非常に専門性の高い仕事である一方、離職率が高い職種の一つです。その最大の要因は、子どもの命と安全を預かる極めて重い責任、業務の複雑さや長時間労働に見合わない低い賃金水準にあります。さらに、サービス残業となりやすい業務(持ち帰り仕事)の多さや、保護者対応のストレスが重なり、心身の疲弊を招く構造となっています。本記事では、この職種で特に離職率が高くなってしまう要因を、「労働条件」「待遇」「業務負担」「キャリア形成」の4つの観点から詳細に解説します。
保育士を含む「医療、福祉」の離職率(参考データ)
保育士を含む医療, 福祉の離職率は、全産業平均より高い水準で推移しています。
| 区分 | 医療, 福祉の離職率 | 全産業の平均離職率 |
| 通年の離職率(年次) | 15.5%(令和4年) | 15.0%(令和4年) |
| 新規大卒就職者の 3年以内離職率 | 38.9%(令和4年3月卒業者) | 33.8%(令和4年3月卒業者) |
| 新規高卒就職者の 3年以内離職率 | 44.9%(令和4年3月卒業者) | 37.9%(令和4年3月卒業者) |
1. 労働時間の問題(長時間労働とサービス残業)
園の開園時間が長く、子どもの安全を確保しつつ、多くの事務作業や準備を行うため、労働時間が長時間化しやすいです。
- 長時間労働とサービス残業:
- 持ち帰り残業の常態化: 勤務時間内に終わらない行事の準備、指導案・日誌の作成、壁面装飾の作成などが「持ち帰り仕事」となり、サービス残業が常態化しています。
- 開園時間の長さ: 延長保育などにより、園の開園時間が長く、早番・遅番が複雑に組み合わされるため、拘束時間が長くなりやすいです。
- 不規則な勤務体制:
- 土曜出勤: 保護者の就労状況により、土曜日の勤務が発生することが多く、週末の休みが安定して取れないことが多いです。
- イベント業務の多忙さ:
- 運動会や発表会などの大規模行事の前後は、準備や練習で極端に残業が増加します。
2. 待遇の問題(責任の重さに見合わない賃金)
子どもの命を預かる重い責任と専門性が求められるにもかかわらず、賃金水準が低いことが、離職の最も大きな要因の一つです。
- 賃金水準の相対的な低さ:
- 業務の重さと賃金のミスマッチ: 子どもの命を預かる責任、専門的な保育知識、事故予防、保護者支援といった多岐にわたる専門性が求められるにもかかわらず、他産業と比較して給与水準が低いと感じる人が多いです。
- 昇給の機会の少なさ:
- 経営形態や公定価格に給与が左右されやすく、個人の努力や資格、経験が給与に適切に反映されにくいことがあります。
- 有給休暇の取得の困難さ:
- 配置基準により、担任やクラスの担当者が休むと人員不足が深刻化するため、病欠以外での有給休暇の申請をためらいやすいです。
3. 業務負担と精神的ストレス(責任の重さと感情労働)
子どもへのケアと安全確保という肉体的・精神的な重労働に加え、保護者との関係構築も大きな負担となります。
- 精神的・感情的ストレス:
- 命を預かる重圧: 常に子どもの事故や怪我、体調急変を防止しなければならないという極めて大きな精神的プレッシャーが伴います。
- 感情労働: 保護者や子どもに対し、常に穏やかで愛情のある態度で接する必要があり、高い水準の感情労働が求められます。
- 保護者対応のストレス:
- 子どもの様子や成長に関する保護者からの厳しい要望やクレーム、時には無理な要求に対応する必要があり、大きなストレス源となります。
- 肉体的な負担:
- 身体的な重労働: 抱っこ、おむつ交換、食事介助など、体力を使う作業が多く、腰痛などの職業病を抱えやすいです。
4. キャリア形成・教育体制の問題
専門職であるにもかかわらず、研修や指導が不十分であったり、職場の人間関係が複雑であったりすることが離職を招きます。
- 教育・研修体制の不足:
- 現場の忙しさから、新任保育士へのOJT(実務訓練)が不十分になり、経験や指導内容が先輩保育士の裁量に委ねられがちです。
- 新しい保育技術や保護者支援に関する研修参加の機会が限られている場合があります。
- 人間関係の複雑さ:
- 女性の比率が高い職場が多く、ベテラン保育士と若手の関係、主任や園長との関係など、職場の人間関係が離職の大きな原因となることがあります。
- キャリアパスの停滞:
- 担任を持つことが中心となり、その後、主任や園長といった管理職への昇進ルートが限定的であったり、昇進に時間がかかったりすることがあります。
負の連鎖の構造
保育士業界では、「低い賃金と過大な業務量・精神的負担→心身の疲弊と燃え尽き症候群→経験者が辞める→残った保育士がより多くの業務と責任を抱える」という負の連鎖が発生しています。特に、子どもの安全という譲れない責任の重さが、結果的に過酷な労働環境を助長してしまう構造が、離職を加速させています。
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