全身麻酔について
全身麻酔は、手術や特定の医療処置の際に、患者の意識を完全に消失させ、痛みを感じないようにする麻酔方法です。ここでは、適応、副作用やリスク、使用薬剤、麻酔管理方法について詳しく解説します。
1. 全身麻酔の適応
全身麻酔は以下のような場合に適応されます。
① 外科手術
- 大きな手術(例:開腹手術、心臓手術、脳神経外科手術)
- 長時間の手術(局所麻酔や脊髄麻酔では困難な場合)
- 患者の不動化が必要な手術(例:眼科手術、整形外科手術)
- 疼痛管理が必要な手術(例:がん手術)
② 検査・処置
- MRIやCTでの動きの制御が必要な小児
- 痛みを伴う処置(例:気管支鏡検査、内視鏡手術)
③ その他
- 局所麻酔が使用できない場合(アレルギー、広範囲の手術)
- 患者の希望(局所麻酔では不安が強い場合)
2. 全身麻酔の副作用・リスク
全身麻酔には一般的な副作用や重篤な合併症のリスクがあります。
① 一般的な副作用
- 術後の吐き気・嘔吐(PONV)
- 喉の痛み(気管挿管による)
- 全身倦怠感
- せん妄(術後の意識混濁)
- 発熱(術後の炎症反応)
② 重篤なリスク
- 気道閉塞・誤嚥性肺炎(誤嚥防止のため絶食管理が必要)
- 心血管系リスク(血圧低下、不整脈、心筋梗塞)
- アレルギー反応(アナフィラキシー)
- 悪性高熱症(遺伝的素因がある場合、筋弛緩薬で誘発)
- 認知機能の低下(高齢者で術後せん妄が起こりやすい)
3. 全身麻酔の使用薬剤
全身麻酔では、目的に応じてさまざまな薬剤が使用されます。
1. 麻酔導入薬(静脈麻酔薬)
一般名(Generic Name) | 商品名(Brand Name) | 特徴 |
---|
プロポフォール (Propofol) | ディプリバン (Diprivan) | 静脈麻酔の主流、速やかな導入と覚醒 |
チオペンタール (Thiopental) | ペントサール (Pentothal) | かつて主流、現在はほぼ使用されない |
エトミデート (Etomidate) | アミダート (Amidate) | 循環安定性が高いが、副腎抑制のリスクあり |
ケタミン (Ketamine) | ケタラール (Ketalar) | 血圧維持が可能、鎮痛作用あり、幻覚の副作用 |
2. 吸入麻酔薬
一般名(Generic Name) | 商品名(Brand Name) | 特徴 |
---|
セボフルラン (Sevoflurane) | セボフレン (Sevoflurane) | 現在の主流、速やかな導入と覚醒、刺激性が少ない |
デスフルラン (Desflurane) | スープレン (Suprane) | 覚醒が速いが、気道刺激性が強い |
イソフルラン (Isoflurane) | フォーレン (Forane) | 循環抑制が少なく安定 |
亜酸化窒素 (Nitrous Oxide, N₂O) | – | 低濃度で使用、鎮痛作用あり |
3. 筋弛緩薬
一般名(Generic Name) | 商品名(Brand Name) | 特徴 |
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ロクロニウム (Rocuronium) | エスラックス (Esmeron) | 作用発現が速く、拮抗薬あり |
スキサメトニウム(サクシニルコリン)(Succinylcholine) | アネクサート (Anectine) | 超短時間作用型、悪性高熱症のリスクあり |
ベクロニウム (Vecuronium) | ノルクロン (Norcuron) | 中等度の作用持続時間、拮抗薬あり |
シスアトラクリウム (Cisatracurium) | ナンバックス (Nimbex) | 肝・腎機能に依存せず分解 |
4. 麻酔維持薬(静脈麻酔・TIVA)
一般名(Generic Name) | 商品名(Brand Name) | 特徴 |
---|
プロポフォール (Propofol) | ディプリバン (Diprivan) | 持続投与可能(TIVA) |
レミフェンタニル (Remifentanil) | ウルティバ (Ultiva) | 超短時間作用型オピオイド、術中鎮痛 |
5. 鎮痛薬(オピオイド系)
一般名(Generic Name) | 商品名(Brand Name) | 特徴 |
---|
フェンタニル (Fentanyl) | ドルガン (Durogesic) | 強力なオピオイド、術中・術後鎮痛に使用 |
モルヒネ (Morphine) | MSコンチン (MS Contin) | 術後鎮痛に使用、呼吸抑制のリスクあり |
レミフェンタニル (Remifentanil) | ウルティバ (Ultiva) | 超短時間作用型 |
スフェンタニル (Sufentanil) | スフェンタニル (Sufenta) | フェンタニルより強力な鎮痛薬 |
6. 鎮痛薬(非オピオイド系)
一般名(Generic Name) | 商品名(Brand Name) | 特徴 |
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アセトアミノフェン(Acetaminophen) | アセリオ (Acelio), タイレノール (Tylenol) | 術後鎮痛、肝障害リスクあり |
ケトロラック (Ketorolac) | トラマール (Toradol) | NSAIDsの一種、腎機能低下のリスク |
ジクロフェナク (Diclofenac) | ボルタレン (Voltaren) | NSAIDsの一種、消化器症状のリスク |
7. 麻酔拮抗薬
一般名(Generic Name) | 商品名(Brand Name) | 特徴 |
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スガマデクス (Sugammadex) | ブリディオン (Bridion) | ロクロニウム、ベクロニウムの拮抗薬 |
ナロキソン (Naloxone) | ナルカン (Narcan) | オピオイドの拮抗薬 |
フルマゼニル (Flumazenil) | アネキセート (Anexate) | ベンゾジアゼピン系の拮抗薬 |
4. 麻酔管理方法
全身麻酔では、患者の安全を確保するために麻酔管理が重要です。
① 麻酔導入
- モニタリング開始(心電図、血圧、酸素飽和度、CO₂測定)
- 静脈路確保(点滴)
- 酸素投与(気道確保の準備)
- 導入薬の投与(プロポフォール、筋弛緩薬など)
- 気管挿管またはラリンゲルマスク装着
- 人工呼吸開始
② 麻酔維持
- 吸入麻酔薬 or 静脈麻酔(TIVA)を持続投与
- 鎮痛薬(フェンタニルなど)を適宜投与
- 筋弛緩薬を適宜追加
- モニタリングを継続(麻酔深度、血圧、心拍数)
③ 覚醒・抜管
- 麻酔薬の中止
- 自発呼吸の回復を確認
- 筋弛緩薬の拮抗薬投与(ロクロニウムの場合)
- 意識が回復し、気道反射が戻ったら抜管
- 酸素投与を続けつつ、リカバリールームで経過観察
まとめ
✅ 全身麻酔は大きな手術や痛みを伴う処置に適応される
✅ 一般的な副作用には吐き気や喉の痛みがあり、重篤なリスクとして気道閉塞や心血管系のトラブルがある
✅ プロポフォールやセボフルランなどの薬剤が使用され、静脈麻酔と吸入麻酔の両方が用いられる
✅ 麻酔管理は、導入・維持・覚醒の各ステップで慎重に行われる