医師が行える医療行為と行えない医療行為について

医師は、医療分野で最も広範な権限と責任を持つ国家資格者です。診断から治療まで、ほぼすべての医療行為を行える立場にありますが、実際には医師法や診療科ごとの規制、医療倫理に従い、他職種との連携も求められます。医師が行える医療行為と行えない行為について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

医師が行える医療行為

医師の医療行為は非常に幅広く、以下のような領域での判断・処置が認められています。

  1. 診断
    • 病状を把握し、患者の健康状態に基づいて病名や治療方針を決定します。検査データの解釈や、問診、身体診察により診断を行い、その結果に基づく治療方針を決定することができます。
  2. 処方
    • 医薬品の処方を行い、薬の種類、用量、投与方法などを指示します。処方箋は医師のみが発行可能で、薬剤師や看護師などは医師の指示に従って薬を管理します。
  3. 外科的処置(手術)
    • 外科的手術を行い、病変部位の除去や組織の再建、移植、修復などを行います。手術の種類や難易度に関わらず、医師が中心的に行う行為です。
  4. 麻酔
    • 麻酔科医を含む医師は、手術中や処置時に必要な麻酔を管理し、投与します。患者の全身状態を確認し、麻酔の適応や投与量、方法を選定するのも医師の役割です。
  5. 救急処置・緊急対応
    • 緊急時の心肺蘇生(CPR)、気管挿管、人工呼吸管理、輸血、緊急手術、止血処置など、生命維持や救命に必要な処置を迅速に行います。
  6. 専門的な医療行為
    • 各専門分野に応じた高度な処置や検査も医師に限られます。例えば、内視鏡検査や心臓カテーテル検査、放射線治療、精神療法など、それぞれの専門医が行う医療行為があります。
  7. 患者および家族への説明と同意取得
    • インフォームド・コンセント(治療内容やリスクについての説明と同意の取得)は医師の重要な業務です。治療方針を共有し、患者の希望を尊重した医療を提供します。

医師が行えない医療行為

医師は幅広い医療行為が認められている一方で、法律や倫理的な理由から行えない行為もいくつか存在します。

  1. 薬剤の販売や調剤
    • 医師は処方権を持っていますが、薬の調剤や販売は薬剤師の職務です。調剤薬局で薬剤師が処方内容を確認し、薬を調合・販売します。
  2. リハビリテーションの直接指導
    • リハビリの評価や大まかな方針の決定は医師が行いますが、具体的な訓練の指導や実施は理学療法士や作業療法士が担当します。
  3. 臨床検査技師・放射線技師が担当する検査操作
    • 検査自体の指示や結果の解釈は医師が行いますが、実際の検体採取や放射線機器の操作などは、専門資格を持つ臨床検査技師や放射線技師に限られます。
  4. 高度な心理療法の実施(精神科医以外)
    • 認知行動療法や催眠療法などの高度な心理療法は、専門教育を受けた精神科医や臨床心理士が実施する場合が多いです。他の診療科の医師は、診断は行えますが、高度な心理療法の直接実施はできません。
  5. 看護や介護業務の直接提供
    • 医療現場では看護や介護も行われますが、患者の身の回りの世話や介助、日常生活の援助は看護師や介護士が担当します。医師が看護業務を行うことは基本的にはありません。

特定の条件下での制限

医師が他分野の行為を行う場合、厳密な制限があります。例えば、認知症の方の成年後見制度を利用した財産管理に医師が関与する場合、利害関係や倫理規定に従って適切に対処しなければなりません。また、医師が非医療のビジネスを行う際には、業務内容が医療活動と矛盾しないよう注意が必要です。

まとめ

医師は診断・治療・手術・緊急対応などほとんどの医療行為が可能ですが、薬の調剤やリハビリの指導、検査技師業務など専門職が担う分野の実施は制限されています。また、医療行為とは異なる業務には関与できない場合もあります。医療の専門性に基づき、各職種が協力して患者のケアを提供することが医療現場での基本姿勢となっています。