学習塾講師は、生徒の成績向上や進路実現を支えるやりがいのある仕事である一方、離職率が高い職種の一つです。その最大の要因は、生徒の放課後に合わせた夜間勤務による不規則な生活、授業準備や保護者対応といった付帯業務による長時間労働、そして生徒の将来を左右するという重い精神的なプレッシャーにあります。さらに、サービス残業となりやすい業務が多いことも、心身の疲弊を加速させる構造となっています。本記事では、この職種で特に離職率が高くなってしまう要因を、「労働条件」「待遇」「業務負担」「キャリア形成」の4つの観点から詳細に解説します。
学習塾講師を含む「教育、学習支援業」の離職率（参考データ）
学習塾講師を含む教育, 学習支援業の離職率は、全産業平均より高い水準で推移しています。
| 区分 | 教育, 学習支援業の離職率 | 全産業の平均離職率 |
| 通年の離職率（年次） | 15.6%（令和4年） | 15.0%（令和4年） |
| 新規大卒就職者の 3年以内離職率 | 45.0%（令和4年3月卒業者） | 33.8%（令和4年3月卒業者） |
| 新規高卒就職者の 3年以内離職率 | 52.2%（令和4年3月卒業者） | 37.9%（令和4年3月卒業者） |
1. 労働時間の問題（夜型勤務とサービス残業）
生徒が学校を終えた後に勤務が集中するため、夜型・長時間になりやすく、労働時間外の業務も多いです。
- 夜間勤務の常態化:
- 生活リズムの不規則さ: 勤務時間帯が夕方から夜間に集中するため、朝早くから夜遅くまで働くことになり、生活リズムが乱れ、疲労が蓄積しやすいです。
- 授業以外の付帯業務:
- サービス残業となりやすい業務: 授業時間とは別に、教材研究、テストの作成、採点、進路相談の資料準備など、時間外に処理しなければならない業務が多く、これがサービス残業となりやすいです。
- 繁忙期の業務量増大:
- 季節講習とイベント: 夏期講習や冬期講習、模試の実施期間などは、通常授業に加え業務量が爆発的に増加し、休みが極端に少なくなります。
- 休日出勤:
- 模擬試験の監督、入試説明会、体験授業などは、土日祝日に行われることが多く、まとまった休みが取りにくいです。
2. 待遇の問題（給与と業務内容のアンバランス）
高い専門性と精神的な負担が求められるにもかかわらず、その対価が十分でないと感じる人が多いです。
- 賃金水準の相対的な低さ:
- 専門性と賃金のミスマッチ: 特定教科の深い知識や指導スキル、生徒指導の能力など高い専門性が求められる一方で、その賃金水準が低いと感じる人が多いです。
- 労働時間と報酬のミスマッチ:
- 上述のサービス残業の多さにより、実質的な時給換算で非常に低い賃金になっていることが、離職の大きな動機となります。
- 評価制度の曖昧さ:
- 授業の質や生徒のモチベーション向上といった目に見えにくい努力が、給与や昇進に適切に反映されない場合、頑張りが報われないと感じやすいです。
3. 業務負担と精神的ストレス（責任の重さと感情労働）
生徒の人生に関わるという責任の重さと、保護者を含む人間関係が大きなストレス源となります。
- 精神的・感情的ストレス:
- 進路指導の重圧: 生徒の成績や進路決定に直接関わるため、失敗が許されない重い責任感と、結果を出さなければならないというプレッシャーが常にかかっています。
- 感情労働: 生徒のモチベーション維持、やる気の引き出し、保護者の期待に応えるための高度なコミュニケーションと配慮が、精神的な疲弊（感情労働）につながります。
- 保護者対応のストレス:
- 生徒の成績に関する厳しい要望や、受験に対する不安からくる保護者からのクレームや相談対応が、大きなストレス源となります。
- マルチタスクの常態化:
- 講師業務だけでなく、教室運営、生徒の募集（営業）、清掃、電話対応など、広範囲の雑務を兼任する必要があり、疲弊しやすいです。
4. キャリア形成・教育体制の問題
専門性の高さゆえに、指導力の向上や管理職への昇進といったキャリアパスが見えにくいことがあります。
- 教育・研修体制の不足:
- 授業技術や生徒指導法に関する体系的な研修が不十分で、新入講師が戸惑いやすいです。
- 指導が、経験豊富な講師のOJT（実務訓練）に依存し、教育の質にばらつきが出やすいです。
- キャリアパスの閉塞感:
- 現場の講師から、教室長、エリアマネージャーといった管理職への昇進ルートが限定的であったり、昇進の基準が不透明であったりすることがあります。
- 経験を積んだ後、独立開業を目指す人が多く、組織内での人材の定着が進みにくい構造です。
- 人間関係のストレス:
- 教室長と講師、講師間の人間関係や指導方針の違いなどが、ストレスになることがあります。
負の連鎖の構造
学習塾講師業界では、「夜間勤務とサービス残業による長時間労働→心身の疲弊と専門性に見合わない賃金→経験者が辞める→残った講師がより多くの授業と付帯業務を抱える」という負の連鎖が発生しています。特に、「生徒のために」という使命感や善意が、結果的に過重労働を許容してしまう構造が、離職を加速させる大きな要因となっています。
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