宿泊業・飲食サービス業の離職率が高いのはなぜ？ 「低賃金」「長時間労働」「負の連鎖」の構造を解説

宿泊業・飲食サービス業は、他の産業に比べ恒常的に離職率が高い傾向にあります。その背景には、お客様の需要に応じた不規則な勤務体制や長時間労働の常態化、そして低い賃金水準といった厳しい労働条件があります。本記事では、この業界で特に離職率が高くなってしまう「労働条件」「待遇」「業務負担」「キャリア形成」の4つの観点から、その具体的な要因と、それらが引き起こす「負の連鎖」の構造を詳細に解説します。

宿泊業・飲食サービス業の離職率（最新データ）

1. 労働時間の問題（長時間労働と不規則な勤務）

この業界は、お客様の需要に合わせて24時間365日営業する施設が多く、労働時間が不規則かつ長時間になりやすい構造的な問題を抱えています。

• 不規則な勤務体制:
  • シフト制の複雑さ: 早番、遅番、夜勤、そして休憩を挟んで長時間拘束される**「中抜け」シフト**などが多く、生活リズムが乱れやすいです。
  • 生活との両立の困難さ: 勤務時間が不規則なため、家族や友人との予定が合わせにくく、心身の負担も大きくなります。
• 長時間労働の常態化:
  • 人手不足による業務過多: 慢性的な人手不足のため、一人当たりの業務量が多くなり、残業が増えやすい傾向にあります。
  • 繁忙期と世間の休日の一致: 土日祝日、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始などの世間が休む時期が稼ぎ時であるため、まとまった休みが取れません。

2. 待遇の問題（賃金水準の低さと休日の少なさ）

業界全体として、他の産業と比較して賃金水準が低い傾向にあり、労働の厳しさに見合った対価が得られていないと感じる人が多いです。

• 給与水準の低さ:
  • 業務とのアンバランス: 接客、調理、清掃、衛生管理、クレーム対応など、マルチタスクや専門性が求められるにもかかわらず、給与が低いと感じる人が多いです。
  • 昇給の機会の少なさ: 評価制度が不明確であったり、給与がなかなか上がりにくいことも、モチベーション低下の要因となります。
• 休暇の取得の困難さ:
  • 休日数の少なさ: サービス業の特性上、全産業の平均と比較して年間休日数が少ない傾向があります。
  • 有給休暇の取得ハードル: ギリギリの人員で業務を回しているため、有給休暇の申請をためらいやすく、リフレッシュが難しい環境です。

3. 業務負担と精神的ストレス

仕事そのものの内容や、顧客対応から生じるストレスも大きな離職要因です。

• 肉体的な負担の大きさ:
  • 立ち仕事: 飲食店やホテルのスタッフは、長時間立ちっぱなしの業務が多く、肉体的な疲労が蓄積しやすいです。
  • 重労働: 重量物の運搬や、多岐にわたる清掃業務など、体力を使う作業が多いです。
• 精神的ストレス:
  • クレーム対応: 顧客と直接関わるため、理不尽な要求や厳しいクレームに対応する必要があり、精神的なストレスが大きいです。
  • 人間関係の悩み: 繁忙期には時間に追われる中で業務を行うため、職場のコミュニケーションが希薄になったり、職人気質やハラスメントにつながったりするケースもあります。

4. キャリア形成・教育体制の問題

特に若手社員にとって、将来への展望が見えにくいことも離職の一因です。

• 教育・研修体制の未整備:
  • 「見て覚えろ」文化: 現場の忙しさから、OJT（実務を通しての指導）が不十分になり、「見て覚えろ」といった教育体制になってしまい、新入社員が不安を感じやすいです。
• キャリアパスの不透明さ:
  • 評価制度の曖昧さ: 昇進や昇格の基準が不明確な場合、頑張っても報われるイメージが持てず、キャリアアップを目指して他の業界へ転職する人が増えます。
  • 業界内での流動性の高さ: 同業他社への転職のハードルが比較的低いため、より良い待遇や労働環境を求めて、業界内で職場を移る「流動的な離職」も多いのが特徴です。

負の連鎖の構造

これらの要因は独立しているわけではなく、「低賃金で休みが少ないから人が辞める→人手不足で一人当たりの負担が増え、さらに労働時間が長くなる→それが嫌でさらに人が辞める」という負の連鎖を生み出していることが、この業界の離職率が高い大きな理由となっています。

就活・職探しに役立つ本 Amazon評価参考ランキング