拘束性肺疾患(Restrictive Lung Diseases)は、肺が十分に拡張できず、肺の容量が減少することで呼吸機能が低下する疾患です。閉塞性肺疾患とは異なり、空気の出入りが制限されるのではなく、肺の拡張が制限されるという特徴があります。
1. 特徴
拘束性肺疾患では、肺や胸壁の柔軟性が低下し、肺が十分に膨らまないため、吸気時に取り込める空気の量が少なくなります。このため、一回換気量や全肺容量(TLC)が減少します。特徴は以下の通りです:
- 呼吸困難:特に吸気時に苦しさを感じます。
- 低酸素血症:酸素の取り込みが困難になるため、低酸素状態になりやすい。
- 胸痛や疲労感:息苦しさが原因で持続的な疲労感や胸部不快感がみられます。
2. 代表的な疾患
- 間質性肺炎:肺組織の硬化や炎症によって、肺の柔軟性が失われる。
- 肺線維症:肺組織が繊維化し、弾力がなくなる。
- 外傷性胸壁疾患:胸壁の異常や損傷により肺が広がりにくくなる。
- 神経筋疾患:筋力低下が原因で呼吸筋が十分に機能しない(例:筋ジストロフィー)。
3. 治療法
拘束性肺疾患の治療は、原因疾患に応じて異なります。以下の治療法が一般的です:
薬物療法
- 抗炎症薬(ステロイド):肺炎や線維症など炎症が原因の疾患では、ステロイドが使われることがあります。
- 免疫抑制薬:免疫機能の異常による肺疾患の場合に使用されることがあります。
酸素療法
肺の拡張が制限されているため、十分な酸素を取り込めない場合には、長期的な酸素療法が必要になります。
リハビリテーション
呼吸機能を維持するために、呼吸筋のトレーニングやリハビリテーションが行われます。持久力や筋力を高める運動も含まれます。
手術
重症例では、肺移植が選択されることもあります。特に肺線維症の進行が早い場合に検討されます。
4. 人工呼吸器の設定
拘束性肺疾患の患者に人工呼吸器を使用する場合、特に肺保護戦略が重要です。無理に肺を膨らませようとすると、損傷や肺の過膨張につながる危険性があるため、適切な設定が求められます。
主な設定項目
- 低一回換気量(VT):6ml/kg以下の換気量が推奨されます。過膨張を避けるため、慎重に設定します。
- 高い呼吸回数(RR):肺の容量が少ないため、呼吸回数を高めに設定し、1回の換気量を少なくして効率的に酸素供給を行います。
- PEEP:適切なPEEP設定は、肺の小さな部位が閉じるのを防ぎ、肺の再膨張を助けますが、過剰なPEEPは避けます。
- 吸気圧(PIP):圧力は低く設定し、肺の過膨張を防ぐように調整されます。
人工呼吸モード
- PCV(Pressure Control Ventilation):圧力制御型の換気を使用し、特に吸気時の圧力を制限して過膨張を避けます。
- APRV(Airway Pressure Release Ventilation):肺の拡張とガス交換をサポートするために使用されますが、慎重なモニタリングが必要です。
注意点
拘束性肺疾患の患者では、換気効率を高めるために呼吸回数の設定を慎重に行い、適切な酸素濃度の維持が重要です。過度な圧力や換気量がかかると、肺損傷を引き起こす可能性があるため、慎重な管理が求められます。
5. 閉塞性と拘束性の違い
- 閉塞性肺疾患では、主に呼気時に問題が生じ、気道が狭くなり空気の流出が制限されます。
- 拘束性肺疾患は、肺の拡張自体が制限され、主に吸気時に問題が生じます。
拘束性肺疾患の治療と管理には、患者の肺機能や病態に応じた適切な人工呼吸器設定や、呼吸リハビリテーションが重要です。特に人工呼吸器使用時には、過剰な圧力や換気量が肺に負担をかけないように細心の注意が必要です。