挫折しそうなあなたへ。マーティン・セリグマンの「ABCDEモデル」で前向きな自分を取り戻そう

マーティン・セリグマンのABCDEモデルは、悲観的な思考パターンを特定し、それを楽観的なものへと変えるための具体的なフレームワークです。これは、何かネガティブな出来事が起きたときに、感情や行動に影響を与える信念(ものの見方や解釈)を意識的に変えることで、より建設的な結果を生み出すことを目指します。

参考文献:ポジティブ心理学の挑戦 “幸福”から“持続的幸福”へ

ABCDEモデルの概要


これはもともと、アーロン・ベックやアルバート・エリスの認知行動理論をベースに、セリグマンが発展させたものです。
人が逆境に直面したときに、思考・感情・行動を整理し、より適応的な考えに変えるプロセスを5つの段階で表します。

A – Adversity(逆境)


まず、あなたが直面している「出来事」や「状況」を客観的に書き出します。
ポイント:感情や評価を混ぜず、事実だけを記す。
例:「上司から会議中に提案を否定された」

B – Belief(信念)


その出来事に対して、あなたが持った「解釈」や「考え方」を明確にします。
これは事実ではなく、あなたの頭の中で生まれた意味づけ。
例:「自分は能力がない」「上司は私を嫌っている」

C – Consequence(結果)


Bでの信念によって生じた「感情」や「行動」を確認します。
例:「落ち込む」「仕事へのやる気を失う」「会議で発言しなくなる」

D – Disputation(反駁)


その信念(B)が本当に正しいのかを検証し、反論を試みます。
方法:
事実確認:「本当にそう言える証拠はあるか?」
代替解釈:「他の可能性は?」
実用性の検討:「その考え方は役立っているか?」
例:「上司は提案自体でなく実行時期を問題視しただけかもしれない」「これまでの評価は悪くなかった」

E – Energization(活性化)


信念を見直し、より現実的で建設的な思考に置き換えた結果、感情や行動がどう変化したかを確認します。
例:「次回は提案前に準備を整えて挑もう」「やる気が少し戻った」

活用の具体例

マーティン・セリグマンのABCDEモデルを、恋愛、将来、健康の3つの具体的な場面でどのように活用できるか見ていきましょう。このモデルを実践することで、困難な状況に陥ったときに、悲観的な思考パターンから抜け出し、より建設的な行動を取る手助けになります。


1. 恋愛での活用例

  • A (Adversity: 逆境)
    • 好きな人にLINEを送ったけれど、既読スルーされてしまった。
  • B (Belief: 信念)
    • 「私には魅力がないからだ。きっと嫌われたんだ。もう脈はない。」
  • C (Consequence: 結果)
    • 落ち込んで、自己肯定感が下がり、またLINEを送るのが怖くなってしまった。
  • D (Dispute: 論駁)
    • 本当にそうだろうか?
      • 「もしかしたら相手が今忙しいだけかもしれない。」
      • 「返信を考えるのに時間がかかっているだけかもしれない。」
      • 「そもそも、たった一度の既読スルーで自分の価値を判断するのは早すぎる。」
      • 「過去には、時間を置いてから返信が来たこともあったな。」
  • E (Energization: 活性化)
    • 少し気持ちが楽になり、「しばらくは返信を待ってみよう。もし返信が来なくても、次のデートに誘うチャンスを別の方法で探してみよう」と前向きな気持ちになった。

2. 将来での活用例

  • A (Adversity: 逆境)
    • 志望していた企業に不採用通知が届いた。
  • B (Belief: 信念)
    • 「自分は社会から必要とされていない。この先、どこにも就職できないかもしれない。」
  • C (Consequence: 結果)
    • 無気力になり、就職活動を続ける気力がなくなり、何も手につかなくなった。
  • D (Dispute: 論駁)
    • 本当にそうだろうか?
      • 「不採用だったのは、単にその企業の求めるスキルセットと私のスキルが少し違っただけかもしれない。」
      • 「世の中には、他にもたくさん魅力的な企業がある。」
      • 「今回の経験を、面接の練習だと捉えれば、次の選考で活かせるはずだ。」
      • 「不採用になった理由は、自分自身とは関係ない別の要因(採用人数の削減など)かもしれない。」
  • E (Energization: 活性化)
    • 気持ちが切り替わり、「今回の面接でのフィードバックを参考に、次は違う業界にも目を向けてみよう」と、別の可能性を模索し始めた。

3. 健康での活用例

諦める気持ちがなくなり、「食事の内容を記録して、運動量を少し増やしてみよう。すぐに結果を求めず、地道に続けていこう」と前向きな行動につながった。
A (Adversity: 逆境)

  • ダイエットを始めたが、1週間で体重が1kgも減らなかった。

B (Belief: 信念)

  • 「やっぱり私には無理なんだ。何をしても痩せない体質なんだ。」

C (Consequence: 結果)

  • 努力が無駄だと思い、ダイエットを諦めて暴飲暴食をしてしまった。

D (Dispute: 論駁)

  • 本当にそうだろうか?
    • 「1週間で結果が出なくても普通のことだ。長期的な視点で考えるべきだ。」
    • 「体重が増えなかっただけでも素晴らしい成果じゃないか。」
    • 「もしかしたら、筋肉が増えて脂肪が減っているのかもしれない。体重だけがすべてではない。」
    • 「運動の種類や食事の内容を見直せば、きっと効果は出てくるはずだ。」

E (Energization: 活性化)

諦める気持ちがなくなり、「食事の内容を記録して、運動量を少し増やしてみよう。すぐに結果を求めず、地道に続けていこう」と前向きな行動につながった。

ポイント


ABCDEは「感情を押し殺す」ための方法ではなく、「感情の元になっている解釈」を見直して現実的な方向に修正する手法です。
セリグマンはこれをレジリエンス(精神的回復力)やポジティブ心理学の訓練プログラムに組み込んでいます。