
濃厚赤血球液(赤血球濃厚液)について、以下の通りご紹介します。
1. 製造方法(日本の現状)
日本では、日本赤十字社によって製造・供給されており、以下のような工程が一般的です:
- 全血(200 mLまたは400 mL)に、MAP液28 mLまたは56 mLを加える。
- 白血球除去フィルターによるろ過で白血球を除去。
- 血漿の多くを除去した赤血球層に、血球保存用添加液(MAP液)をそれぞれ約46 mL(200 mL由来)または約92 mL(400 mL由来)混和。
- この製剤が「赤血球液-LR(日赤)」、放射線照射したものが「照射赤血球液-LR(日赤)」です。
- 容量としては、約140 mL(200 mL由来)および約280 mL(400 mL由来)があり、Ht値は50~55%、Hb含有量は400 mL由来で約53 gです 。
- 保存温度は2~6 °C、有効期間は21日間(以前は42日間だったが、安全性の観点から短縮されています) 。
輸血用血液製剤に使われる添加液は、赤血球の機能を維持し、長期間にわたって安全に保存するために、様々な成分が配合されています。MAP液は、その代表的な添加液の一つで、その名前は主要な成分の頭文字からきています。
MAP液の主な成分とその働き
MAP液の「MAP」は、以下の成分を指しています。
- Mannitol(マンニトール)
- 赤血球の膜を強化し、溶血(赤血球が壊れること)を防ぎます。
- Adenine(アデニン)
- 赤血球のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)の合成を助け、細胞の形態を維持します。
- Phosphate(リン酸塩)
- リン酸二水素ナトリウムとして配合されており、ATPの産生に利用されます。
これらに加えて、赤血球の機能と保存状態を維持するために、以下のような成分も含まれています。
- ブドウ糖
- 赤血球の主要なエネルギー源として、代謝を維持します。
- 塩化ナトリウム
- 血液の浸透圧を調整し、赤血球が膨らんだり縮んだりするのを防ぎます。
- クエン酸ナトリウム
- 血液が固まるのを防ぐ抗凝固剤として機能します。
- クエン酸
- 血液のpHを低く保ち、赤血球の代謝を抑制することで、劣化を防ぎます。
これらの成分がバランス良く配合されることで、輸血用赤血球製剤は、適切な温度(2~6℃)で最長21日間という期間、その機能を保つことができるのです。
2. 価格(参考情報)
過去の厚生労働省資料によると、以下のような薬価が掲載されています(あくまで参考):
- 赤血球濃厚液-LR(日赤)400 mL:約 16,338 円
- 同200 mL:約 9,207 円 。
ただしこちらはかなり古いデータで、現在の価格は医療機関や保険診療報酬によって異なる可能性があります。
3. 病院での使用例・適応
使用目的・インジケーション:
- 貧血や出血によって酸素運搬能力が低下した患者に対して使用されます。術中や術後、急性出血時などに用いられます。
- Hb値7~8 g/dLで酸素供給は基本的に可能ですが、冠動脈疾患や呼吸器障害などでは10 g/dL程度に維持が推奨される場合もあります。
- 投与量は以下の式で計算されます。
予測上昇 Hb値(g/dL)=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)
例:体重50 kg(循環血液量35 dL)の成人が400 mL(2単位)のMAP加赤血球濃厚液を輸血すると、Hbは約1.5〜1.7 g/dL上昇 。
大量輸血への対応:
- 大量出血時には、赤血球濃厚液に加え新鮮凍結血漿や血小板濃厚液を1:1:1または少なくとも1:1:2の比率で迅速な輸血を行うことが推奨されます(Massive Transfusion Protocol:MTP) 。
まとめ表
項目 | 内容 |
---|---|
製造方法 | CPD添加→白血球除去→血漿除去→MAP液混合(2~6 °C保存、21日間) |
容量とHb含有量 | 約140 mLまたは280 mL、Hb ≈53 g(400 mL由来) |
価格(参考) | 200 mL:約9,200円、400 mL:約16,300円(過去データ) |
使用例 | 貧血の改善、手術中・術後・出血時の輸血、大量輸血対応 |