葬儀業スタッフの離職率が高いのはなぜ? 「24時間待機」「精神的な重圧」「時間外の拘束」の構造を解説

葬儀業スタッフは、ご遺族の最後の別れを支える専門性と高い倫理観が求められる仕事ですが、離職率が高い職種の一つです。その最大の要因は、24時間365日の緊急対応による生活の不規則さ、人命の尊厳に関わる業務から生じる極めて大きな精神的・感情的な負担にあります。さらに、儀式を円滑に進めるための長時間拘束と、業務の特殊性に見合わない賃金水準が重なり、心身を疲弊させる構造となっています。本記事では、この職種で特に離職率が高くなってしまう要因を、「労働条件」「待遇」「業務負担」「キャリア形成」の4つの観点から詳細に解説します。


葬儀業スタッフを含む「生活関連サービス業、娯楽業」の離職率(参考データ)

区分生活関連サービス業, 娯楽業の離職率全産業の平均離職率
通年の離職率(年次)20.1%(令和4年)15.0%(令和4年)
新規大卒就職者の 3年以内離職率46.5%(令和4年3月卒業者)33.8%(令和4年3月卒業者)
新規高卒就職者の 3年以内離職率52.2%(令和4年3月卒業者)37.9%(令和4年3月卒業者)

1. 労働時間の問題(24時間365日の待機体制)

故人やご遺族の都合、そして緊急性に合わせて対応する必要があるため、労働時間が極めて不規則で長時間になりがちです。

  • 24時間365日の待機・緊急対応:
    • 死亡は予期せぬタイミングで発生するため、スタッフは夜間や休日も緊急の連絡や出動に備える必要があります。これにより、プライベートの時間が確保しにくく、生活リズムが乱れやすいです。
  • 長時間拘束と不規則な休憩:
    • 儀式ごとの長時間拘束: 葬儀は、打ち合わせから通夜、告別式、火葬まで、数日間にわたってスケジュールが進行します。この期間中、スタッフは長時間にわたって会場に拘束され、十分な休憩が取れないことがあります。
    • 繁忙期の連続勤務: 死亡者が集中する時期には、連日・連続での対応が求められ、肉体的な疲労が蓄積しやすいです。

2. 待遇の問題(精神的な重責に見合わない賃金)

極めて高い専門性、倫理性、そして精神的な負担が求められるにもかかわらず、賃金水準が低いと感じる人が多いです。

  • 賃金水準の相対的な低さ:
    • 専門性と賃金のミスマッチ: 葬祭ディレクター資格など、高度な知識や高いコミュニケーション能力、精神力が求められる一方で、その重責に見合った賃金水準ではないと感じる人が多いです。
  • 不確実な手当:
    • 緊急対応や夜間対応の手当が十分に支給されない、または実質の労働時間と見合っていないと感じるケースがあります。
  • 休暇の取得の困難さ:
    • 24時間体制で動いているため、人員に余裕がなく、長期休暇や有給休暇の取得が極めて困難です。

3. 業務負担と精神的ストレス(死に向き合う重圧と感情労働)

「死」という最も重いテーマを扱うため、他のサービス業とは比較にならないほど、精神的、感情的な負担が大きくなります。

  • 精神的・感情的ストレス:
    • 遺族の悲しみに寄り添う感情労働: 悲嘆に暮れるご遺族に対し、常に冷静かつ温かい態度で接する必要があり、精神的な疲弊(燃え尽き症候群)に陥りやすいです。
    • 責任の重さ: 人生の最期を飾る儀式を滞りなく、そして遺族の希望通りに進めるという失敗が許されない重い責任が常に伴います。
    • 死の現場との接触: 故人のご遺体の搬送や処置など、死の現実と向き合う必要があり、精神的に大きな負担がかかります。
  • 肉体的な重労働:
    • ご遺体の搬送: 重いご遺体を運搬する作業など、力仕事が避けられず、肉体的な負担が大きいです。
    • 長時間立ちっぱなし: 通夜や告別式の間、長時間立ちっぱなしで対応する必要があるため、肉体的な疲労も伴います。

4. キャリア形成・教育体制の問題

専門知識の習得が必要であるにもかかわらず、指導が不十分であったり、業界特有の人間関係に悩んだりすることがあります。

  • 教育・研修体制の不足:
    • 知識やマナーなど、覚えるべきことが多岐にわたるにもかかわらず、現場の忙しさから体系的な研修やOJTが不十分になりがちです。
    • 業界特有の慣習や地域のしきたりを学ぶため、指導がベテラン社員の経験に依存しやすいです。
  • 閉鎖的な人間関係:
    • 業務の特殊性から、職場内が比較的閉鎖的な人間関係になりやすく、相談しにくい、馴染みにくいと感じることがあります。
  • キャリアパスの停滞:
    • 葬祭ディレクターとして現場経験を積むことが中心で、その後の昇進やキャリアチェンジの道筋が見えにくいことがあります。

負の連鎖の構造

葬儀業界では、「人手不足による24時間体制と長時間拘束→精神的重圧と業務に見合わない賃金→経験者が辞める→残ったスタッフに緊急対応と重圧が集中する」という負の連鎖が発生しています。特に、「人の死」という逃れられない現実と向き合う業務の特性が、職員の心身の疲弊を加速させています。

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