
世界の国々や国際機関が実施している主な移民対策は、「流入の管理と国境対策」「社会統合と受け入れ支援」「根本原因への対応」「国際協力と枠組み」**の4つの柱に大別されます。
現在の傾向(2024-2025年)としては、地政学的緊張と移民増加を背景に、国境管理の強化と流入抑制策が加速する一方で、根本原因への対処の必要性と、統合支援の不足が課題となっています。
1. 移民流入の管理と国境対策
移民の流入を制御し、不法入国を防ぐための厳格な措置が取られています。
- 国境管理の強化
- EU: Frontex(欧州国境・沿岸警備隊)の予算増額と、ドローンやAIなどの監視技術を活用した国境フェンスの展開(例: ポーランド-ベラルーシ国境)。
- 米国: 国境壁の拡張計画や、税関・国境保護局(CBP)の人員増強など、厳格化が進んでいます。
- オーストラリア: **「オフショア処理」**政策(庇護申請者をナウルなどの第三国で処理)を継続し、不法入境を抑止しています。
- 外部処理協定
- 英国: 庇護申請者を第三国のルワンダに移送する計画を推進し、自国への流入抑制を目指しています。
- EU: アルバニアやチュニジアと協定を結び、域外で庇護申請を処理する試験的プログラムを実施中です。
- 入国規制の厳格化
- EU: 2025年にETIAS(欧州渡航情報認証制度)を導入し、ビザ免除国からの渡航者の事前スクリーニングを開始します。
2. 社会統合と受け入れ支援
ホスト国における移民の生活安定と社会への貢献を促進するための対策です。
- 言語・教育プログラム
- ドイツ: 移民向け無料の**ドイツ語コース(Integrationskurs)**や職業訓練を拡充し、約30万人が参加しています。
- カナダ: 移民定住プログラム(Settlement Services)で、言語、就労、住宅支援を一元的に提供し、高い経済貢献度を維持しています。
- 日本: 地方自治体による日本語教育や就労支援を行っていますが、欧米に比べ規模が小さいのが現状です。
- 雇用支援
- EU: 高度人材向けのブルーカード制度を簡素化し、労働力不足の解消を図っています。
- スウェーデン: 特定職種で移民の労働市場参入を迅速化する「Fast Track」プログラムを実施しています。
- 課題: 統合の失敗は、移民コミュニティの**孤立(エンクレーブ化)**や、反移民感情を招く原因となり、ポピュリズムの台頭にも繋がっています。
3. 根本原因への対応
移民の流出を引き起こす、紛争、貧困、気候変動といった構造的な問題に対処する対策です。
- 紛争解決と平和構築
- 国連(UN): 平和維持活動(PKO)や調停支援により、紛争地域(例: スーダン、ウクライナ)の安定化を図っています。
- EU: シリアやウクライナなどへの復興支援に巨額の資金を提供しています。
- 経済開発支援
- 世界銀行・IMF: グローバルサウスへの大規模な融資を通じて、貧困と失業を削減し、経済移民の流出抑制を目指しています。
- G7: 出身国への**ODA(政府開発援助)**を強化しています。
- 気候変動対策
- IOM: 気候変動による移住者(2040年までに2億人予測)への再定住支援や、国際的な保護枠組みの構築を進めています。
4. 国際協力と枠組み
国際的な連携と協定を通じて、共通の課題に取り組んでいます。
- 国連枠組み
- グローバル・コンパクト(2018年): 安全で秩序ある移住を目指す国連協定で、データ共有や送金コスト削減を推進しています。
- UNHCRの再定住プログラム: 難民を第三国へ再定住させるプログラムですが、**資金不足(2024年の予算充足率56%)**が深刻な課題となっています。
- 地域協定
- EUの新移民・庇護協定(2026年施行): 加盟国間での難民受け入れ枠や資金拠出の負担分担を調整し、域内の対応を標準化することを目指しています。
- NGOの役割: Amnesty Internationalなどの人権団体や、各国の難民支援NGOが、庇護申請支援、人権監視、人道支援を補完しています。
日本の主な対策
日本は主に労働力補完と難民保護に焦点を当てた対策を実施しています。
- 労働力受け入れ: 特定技能ビザ(2019年導入)により、介護や建設分野の外国人労働者(約20万人)を受け入れています。
- 難民保護: 難民認定率は低い(2023年:2.2%)ものの、特定活動資格による人道保護を行っています。
- 課題: 労働者に対する統合支援の不足や、反移民感情への対応が今後の課題です。