企業に勤める労働者にとって、健康診断の受診は法律で義務付けられています。特に「法定健診」と呼ばれる定期健診や雇入れ時健診は、労働者の健康維持と安全衛生管理の土台となるものです。本記事では、この法定健診の具体的な対象者、実施時期、必須の検査項目をわかりやすく解説します。さらに、費用は会社と個人のどちらが負担するのかという重要なルールについても詳しくまとめます。労働者も企業も知っておくべき法定健診の基本を押さえ、適切に健康管理を進めましょう。
1. 定期健診（一般健康診断）
目的・義務
- 目的: 労働者の健康状態を定期的にチェックし、病気の早期発見と健康障害の予防を図ること。
- 事業者の義務: 事業者は、労働者に対し、医師による健康診断を1年以内ごとに1回、定期的に実施しなければなりません。
- 労働者の義務: 労働者も、事業者が行う健康診断を受けなければなりません。
対象者
- 常時使用する労働者
- 正社員
- 契約社員、パートタイマーなどであっても、以下のいずれの要件も満たす者
- 雇用期間の定めのない者、または1年以上の雇用が見込まれる者
- 週の所定労働時間が、正社員の所定労働時間の4分の3以上である者
- ※週の所定労働時間が正社員の4分の3未満で2分の1以上の者についても、健診を実施することが望ましいとされています。
実施時期
- 1年以内ごとに1回
2. 雇入れ時健診
目的・義務
- 目的: 新たに労働者を雇い入れる際に、その労働者の健康状態を把握し、適正な配属や入社後の健康管理に役立てること。
- 事業者の義務: 労働者を雇い入れる際、当該労働者に対し、医師による健康診断を実施しなければなりません。
対象者
- 常時使用する労働者を新たに雇い入れる際
- ※ただし、医師による健康診断を受けた後、3か月以内に事業者にその結果を証明する書面を提出した場合は、その健診項目に限り省略が可能です。
実施時期
- 雇入れの直前、または直後
3. 法定健診の必須検査項目（11項目）
定期健診および雇入れ時健診で実施が義務付けられている基本的な検査項目は以下の11項目です。
| 項目 | 検査内容 |
| 1. 既往歴及び業務歴の調査 | 過去の病気やこれまでの仕事の内容の確認 |
| 2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 | 自分で感じる症状や、医師が見てわかる症状の確認 |
| 3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査 | 身体測定、視力、1,000Hz・4,000Hzの聴力検査 |
| 4. 胸部エックス線検査 | 結核、肺がん、その他の肺の病気の有無の確認 |
| 5. 血圧の測定 | 収縮期及び拡張期血圧の測定 |
| 6. 貧血検査 | 赤血球数、血色素量（ヘモグロビン）の測定 |
| 7. 肝機能検査 | GOT（AST）、GPT（ALT）、γ-GTPの測定 |
| 8. 血中脂質検査 | HDLコレステロール、LDLコレステロール、トリグリセライド（中性脂肪）の測定 |
| 9. 血糖検査 | 血糖値の測定 |
| 10. 尿検査 | 尿中の糖及び蛋白の有無の検査 |
| 11. 心電図検査 | 安静時の心電図検査 |
※35歳未満と36歳〜39歳の者については、医師が必要と認めない限り、「6. 貧血検査」「7. 肝機能検査」「8. 血中脂質検査」「9. 血糖検査」「11. 心電図検査」は省略可能です。
4. 費用負担のルール
法定健診の費用負担については、以下の通り定められています。
| 区分 | 費用負担のルール | 根拠 |
| 法定健診の実施費用 | 原則として事業者が全額負担する | 労働安全衛生法は、事業者に健康診断の実施を義務付けているため、それに要する費用は、一般的に事業者が負担すべきものと解されています。 |
| 健診受診時間中の賃金 | 労使間の協議による | 法的には「無給でもよい」とされていますが、労働者が受診しやすいよう、有給（賃金を支払う）とするのが望ましいとされています。 |
| 再検査・精密検査の費用 | 原則として労働者が負担する | 法定健診の結果、「要再検査」や「要精密検査」となった場合の費用は、もはや疾病の治療や確定診断が目的となるため、健康保険が適用され、労働者本人の負担となるのが原則です。ただし、会社が福利厚生として負担する場合もあります。 |
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