飲食店スタッフの離職率は、全産業の中で最も高い水準にあります。その背景には、お客様の食事の時間に合わせた労働による長時間労働と不規則な勤務体制、特に「中抜け」シフトの多さがあります。さらに、サービス業特有の低い賃金水準と、ピーク時のスピード感やクレーム対応による精神的・肉体的な負担が重なり、離職が後を絶たない構造となっています。本記事では、この業界で離職率が高くなってしまう要因を、「労働条件」「待遇」「業務負担」「キャリア形成」の4つの観点から詳細に解説します。
飲食店スタッフを含む「宿泊業、飲食サービス業」の離職率（最新データ）
| 区分 | 宿泊業, 飲食サービス業の離職率 | 全産業の平均離職率 |
| 通年の離職率（年次） | 26.8%（令和4年） | 15.0%（令和4年） |
| 新規大卒就職者の 3年以内離職率 | 55.4%（令和4年3月卒業者） | 33.8%（令和4年3月卒業者） |
| 新規高卒就職者の 3年以内離職率 | 64.7%（令和4年3月卒業者） | 37.9%（令和4年3月卒業者） |
1. 労働時間の問題（長時間労働と「中抜け」シフト）
顧客の食事のタイミングに合わせて営業するため、勤務時間が不規則かつ長時間になりやすい構造的な問題を抱えています。
- 不規則な勤務体制と長時間拘束:
- 「中抜け」シフトの多さ: ランチとディナーのピークの間に長時間（数時間）の休憩が挟まる「中抜け」シフトが多く、実質的な拘束時間が長くなり、休憩時間も有効に使えないことが多いです。
- 土日祝日の勤務: 週末や祝日、長期休暇など、世間が休む時期が最も忙しい**「稼ぎ時」**であるため、まとまった休みが取れません。
- 長時間労働の常態化:
- 人手不足による業務過多: 慢性的な人手不足のため、一人当たりの業務量（調理、接客、清掃、発注など）が多くなり、残業が増えやすい傾向にあります。
- 開店・閉店準備: 営業時間外の仕込み、清掃、締め作業などが長くなり、労働時間に含まれないサービス残業となることも少なくありません。
2. 待遇の問題（賃金水準の低さと休日の少なさ）
業務の忙しさやマルチタスクが求められる内容に対して、賃金水準が低いことが離職の最大の要因です。
- 給与水準の低さ:
- 業務とのアンバランス: 調理、接客、衛生管理、クレーム対応など、多岐にわたる専門性や体力が求められるにもかかわらず、他産業と比較して給与水準が低いと感じる人が多いです。
- 昇給の機会の少なさ: 個人のスキルや努力が評価制度に反映されにくく、給与がなかなか上がらないことがモチベーション低下につながります。
- 休暇の取得の困難さ:
- 休日数の少なさ: サービス業の特性上、全産業の平均と比較して年間休日数が少ない企業が多いです。
- 有給休暇の取得ハードル: ギリギリの人員で店舗を運営しているため、有給休暇の申請をためらいやすく、リフレッシュが難しい環境です。
3. 業務負担と精神的ストレス（ハイペースな肉体労働と感情労働）
ピーク時の圧倒的な忙しさと、顧客対応から生じる精神的なストレスが大きな離職要因です。
- 肉体的な負担の大きさ:
- 立ち仕事: 営業中は長時間立ちっぱなしの業務が必須で、肉体的な疲労が蓄積しやすいです。
- ピーク時の重労働: 昼食時や夕食時など、ピークタイムの業務は非常にハイペースで、体力と集中力を極度に消耗します。
- 精神的ストレス:
- クレーム対応: 顧客と直接関わるため、料理への不満、待ち時間、スタッフの対応など、理不尽な要求や厳しいクレームに対応する必要があり、精神的なストレスが大きいです。
- 人間関係の悩み: 忙しい環境下で、調理場とホール間の連携がうまくいかなかったり、職場のコミュニケーションが希薄になったりすることがあります。
- 衛生管理の責任:
- 食中毒やアレルギーなど、食品衛生管理に関する重い責任が常に伴います。
4. キャリア形成・教育体制の問題
OJT中心の指導や、業界内でのキャリアパスの単調さが、若手社員の将来への展望を阻みます。
- 教育・研修体制の未整備:
- 「見て覚えろ」文化: 現場の忙しさから、新入社員へのOJT（実務指導）が不十分になり、「見て覚えろ」「まずは慣れろ」といった指導になりやすく、新人が不安を感じやすいです。
- キャリアパスの不透明さ:
- 評価制度の曖昧さ: 店舗の売上といった結果は明確でも、個人の成長や努力を評価する仕組みが不明確な場合、頑張る方向性や昇進・昇格の基準が見えにくいです。
- キャリアの選択肢の少なさ: 多くの企業で、現場の店舗スタッフから店長、その上のエリアマネージャーといった限られたキャリアパスしか提示されないことがあります。
- 業界内での流動性の高さ:
- 同業他社への転職のハードルが比較的低いため、より良い待遇や労働環境を求めて、積極的に職場を移る「流動的な離職」も多いのが特徴です。
負の連鎖の構造
飲食店業界では、これらの要因が複合的に絡み合い、「低賃金で休みが少ないから人が辞める→人手不足で一人当たりの業務量が爆発的に増える→労働時間が長くなり心身が疲弊する→それが嫌でさらに人が辞める」という負の連鎖を形成しています。この構造こそが、飲食業が常に高い離職率から抜け出せない最大の理由となっています。
就活・職探しに役立つ本 Amazon評価参考ランキング
| 順位 | 書籍名 | 著者名 | 概要・評価のポイント |
| 1位 | 転職と副業のかけ算 生涯年収を最大化する生き方 | moto | 自身の経験をもとに、市場価値を高める働き方や、転職・副業を組み合わせた具体的なキャリア戦略を解説。Amazon総合ランキングやビジネス書ランキングで1位を獲得するなど、極めて高い人気と実用性が評価されています。 |
| 2位 | 転職の思考法 | 北野 唯我 | 「転職は手段であり、目的ではない」という視点から、キャリアをデザインするための本質的な思考法を提示。「自分にとっての価値」を見極めるためのフレームワークが優れていると高評価です。キャリア戦略の定番書として広く読まれています。 |
| 3位 | 世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方 | 八木 仁平 | 「やりたいこと」を「好きなこと」「得意なこと」「求められること」の3つの要素に分解し、誰でも論理的に適職を見つけるための具体的なメソッドを提供。特に「やりたいことがわからない」という悩みを抱える人に、高い評価を得ています。 |
| 4位 | 科学的な適職 4021の研究データが導き出す、最高の職業の選び方 | 鈴木 祐 | 心理学や行動経済学の最新研究に基づき、「幸福度を最大化する仕事の選び方」を科学的に解説。多くの研究データに基づいた信頼性の高さと、適職探しの誤解を解く視点が非常に評価されています。 |
| 5位 | LIFE SHIFT（ライフ・シフト）100年時代の人生戦略 | リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット | 長寿化が進む「人生100年時代」における、キャリア、働き方、学び方、人間関係の再設計を提言する古典的ベストセラー。短期的な就活テクニックではなく、長期的なキャリア戦略を考える上での必読書として世界的にも高評価です。 |
