
頭部打撲後、生命を脅かす最大の危機となるのが、頭蓋骨と脳の間に起こるさまざまなタイプの出血、すなわち外傷性頭蓋内出血です。特に緊急性が高いのは、急性硬膜外血腫(EDH)と急性硬膜下血腫(ASH)であり、その発生部位、原因血管、そしてCT画像に映る血腫の形状(凸レンズ型か三日月型か)によって、治療の緊急度や予後が大きく異なります。本記事では、これらEDH・ASHに加え、外傷性くも膜下出血(tSAH)を含めた主要な3つの出血を、原因、画像所見、そして予後の観点から徹底比較します。それぞれの病態が持つ脳ヘルニアのリスクや、遅発性の脳血管攣縮といった注意すべき合併症を理解することは、迅速な診断と適切な治療選択に不可欠です。
外傷性頭蓋内出血の比較
| 項目 | 急性硬膜外血腫 (EDH) | 急性硬膜下血腫 (ASH) | 外傷性くも膜下出血 (tSAH) |
| 出血部位 | 頭蓋骨と硬膜の間 | 硬膜とくも膜の間 | くも膜と軟膜の間 (脳表) |
| 主な原因血管 | 中硬膜動脈などの動脈(骨折を伴うことが多い) | 架橋静脈の断裂、脳挫傷からの出血 | 脳表の小血管、脳挫傷からの出血 |
| CT画像所見 | 凸レンズ型(ラグビーボール型) (硬膜が骨から剥がれるため境界がハッキリする) | 三日月型(バナナ型) (血腫が脳の表面に沿って広がる) | くも膜下腔(脳の溝)の高吸収域(白い線状・モヤ状の出血) |
| 発症の速さ | 比較的早い(動脈性出血のため進行が速い) | 非常に早い(多くは受傷直後から進行) | 受傷と同時 |
| 治療 | 緊急開頭血腫除去術が原則。迅速な対応が必須。 | 緊急開頭血腫除去術、脳浮腫対策も必須。 | 通常、保存的治療(安静、血圧管理)。 大量出血や脳挫傷を合併する場合は、減圧開頭術の可能性あり。 |
| 予後 | 比較的良好。 (脳本体の損傷が少なければ、迅速な手術で救命可能) | 非常に不良(死亡率が高い)。 (脳挫傷を伴うことが多く、脳本体の損傷が重篤) | 単独であれば良好(血腫は自然吸収される)。 予後は合併した脳挫傷の重症度に依存する。 |
| 意識障害 | 一時的に意識が回復する意識清明期があることがある。 | 受傷直後から重篤な意識障害となることが多い。 | 軽度の意識障害や頭痛で済むこともあるが、合併症で重症化する。 |
補足的なポイント
1. 脳ヘルニアのリスク
EDHとASHは、血腫が増大することで脳を圧迫し、脳ヘルニア(脳の一部が圧力でずり下がってしまう状態)を引き起こし、生命の危機に直結します。特にASHは脳挫傷を伴いやすく、脳の腫れも強いため、最も緊急度が高い病態の一つです。
2. 外傷性くも膜下出血 (tSAH) の特徴
- 単独では予後が良い: 出血が少量であれば、脳脊髄液に溶け込んで自然に吸収されるため、血腫除去術は通常行いません。
- 合併症が鍵: tSAHが重篤になるのは、脳挫傷やびまん性軸索損傷といった、他の重篤な脳損傷を合併している場合です。
- 注意すべき合併症: 脳の血管が細くなる脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)や、髄液の流れが悪くなる水頭症を遅発性(数日~数週間後)に発症するリスクがあります。
これらの外傷性出血は、CT画像上の形や、出血源となる血管の違いから、緊急性と予後が大きく異なります。正確な診断と、病態に応じた迅速な治療が救命と予後改善の鍵となります。
