【比較】「くも膜下出血」は二種類ある! 外傷性(tSAH)と動脈瘤破裂の症状・予後・CT画像の特徴

同じ「くも膜下出血」という診断名であっても、外傷性(tSAH)と非外傷性(動脈瘤破裂)では、その原因、症状の激しさ、そして治療の緊急度が全く異なります。非外傷性の場合は「人生最悪の激しい頭痛」とともに発症し、動脈瘤処理のための緊急手術が必須となる致死率の高い病態です 。一方、tSAHは外傷が原因であり、多くは少量出血で保存的治療が主体となります。本記事では、この二つの病態を原因血管、出血の形態(CT画像所見)、再出血リスク、および緊急治療の必要性という観点から徹底的に比較し、正確な鑑別診断がいかに重要であるかを解説します。特に頭部外傷の後に意識障害や頭痛がある場合、どちらのタイプなのかを迅速に判断することが、患者様の生命と予後を左右する鍵となります。

外傷性(tSAH)と非外傷性くも膜下出血の比較

項目外傷性くも膜下出血 (tSAH)非外傷性(特発性)くも膜下出血
原因頭部外傷による脳表面の小血管の破綻や、脳挫傷からの出血。脳の動脈にできた動脈瘤(どうみゃくりゅう)の破裂が原因の約80%を占める。
出血の形態脳溝に沿った線状・モヤ状の少量出血が多い。通常、脳全体には広がりにくい。脳底槽(脳の深い部分にある広い空間)に大量に出血し、広範囲に広がる。
症状の出方外傷の症状が主体。頭痛は軽度〜中程度。意識障害は合併する脳挫傷の重症度に依存する。突然、人生最悪の激しい頭痛(雷鳴様頭痛)を発症し、多くは意識を失うか重篤な意識障害に至る。
再出血のリスクほとんどない。一度止まれば再出血の心配はない。極めて高い。発症後24時間以内の再破裂リスクが高く、致死的になりやすい。
主な治療保存的治療(安静、対症療法、合併症予防)。
緊急手術は合併症(硬膜下血腫など)が原因の場合のみ。
緊急の開頭手術または血管内治療(コイル塞栓術)による動脈瘤の処理が必須。
重要な合併症遅発性水頭症脳血管攣縮(非外傷性に比べると軽度)。重篤な脳血管攣縮(致命的な脳梗塞の原因)、水頭症
予後比較的良好(単独の場合)。
予後は合併する脳挫傷の重症度に依存する。
非常に不良(死亡率・重度後遺症率が高い)。
迅速な治療と集中管理を行っても約50%が死亡または重度の障害を残す。

診断上の重要な違い

特徴外傷性くも膜下出血 (tSAH)非外傷性くも膜下出血
頭蓋内病変脳挫傷、急性硬膜下血腫など、外傷による他の病変をしばしば合併する。他の病変は通常なく、動脈瘤が唯一の原因となる。
CT画像出血が脳の表面や頭頂部に限定されることが多い。出血が脳の深い部分(脳底槽)に広範囲に広がる。
血管評価緊急の血管撮影は通常不要。破裂した動脈瘤を特定するため、緊急の脳血管撮影(CTA/DSA)が必須。

まとめ

  1. tSAH:原因は外傷であり、多くの場合、出血量が少なく予後は比較的良好です。治療は安静と経過観察が主体となります。
  2. 非外傷性くも膜下出血:原因は脳動脈瘤の破裂であり、症状は激しく、緊急手術を要する極めて致死率の高い疾患です。

どちらも「くも膜下出血」ですが、外傷の有無によって、その病態は全く別物として扱われます。