人工呼吸器の一回換気量について

人工呼吸器の一回換気量(潮気量、VT)は、患者の肺に一度の呼吸で送られる空気の量を指します。この設定は、酸素と二酸化炭素の交換を最適化し、肺を保護するために重要です。

1. 一回換気量(VT)の設定方法

一回換気量の設定は、患者の体重、病態、および肺のコンプライアンス(肺の伸びやすさ)に基づいて行われます。

  • 標準的な設定:
    • 成人では、通常 6〜8 ml/kgの理想体重 が推奨されます。例えば、理想体重が70kgの患者の場合、VTは420〜560mlとなります。
  • 理想体重の計算:
    • 理想体重(kg)= 50 + 2.3 ×(身長(cm) – 152.4)男性の場合
    • 理想体重(kg)= 45.5 + 2.3 ×(身長(cm) – 152.4)女性の場合
  • 低換気量換気:
    • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の場合、4〜6 ml/kg の低換気量が推奨されます。これにより、肺損傷のリスクを軽減します。

2. 一回換気量と酸素、二酸化炭素の関係

酸素(O2)の関係:

  • 酸素供給:
    • 一回換気量が適切に設定されていると、十分な酸素が肺胞に到達し、血液に取り込まれます。換気量が増加すれば、酸素供給が改善され、酸素飽和度(SpO2)が上昇する可能性があります。
  • 酸素飽和度(SpO2)とPaO2:
    • VTが適切であれば、血中酸素分圧(PaO2)が改善され、SpO2が安定します。ただし、酸素供給は吸入酸素濃度(FiO2)やPEEPなど他の設定にも依存します。

二酸化炭素(CO2)の関係:

  • CO2排出:
    • VTが増加すると、肺からのCO2排出が増え、血中のCO2濃度(PaCO2)が低下します。逆に、VTが低いとCO2の排出が不十分となり、PaCO2が上昇します。
  • 呼吸性アルカローシスとアシドーシス:
    • 高いVT設定により過換気が起こると、PaCO2が過度に低下し、呼吸性アルカローシスを引き起こす可能性があります。
    • 低いVT設定で換気不全が起こると、PaCO2が上昇し、呼吸性アシドーシスを引き起こす可能性があります。

3. 肺保護換気と注意点

  • 過伸展のリスク:
    • VTが高すぎると、肺胞が過度に膨らんでしまい、肺損傷(volutrauma)やバロトラウマのリスクが増加します。
  • 不十分な換気:
    • VTが低すぎると、酸素化が不十分になり、CO2の蓄積が進む可能性があります。特に重症肺疾患の患者では注意が必要です。

4. 臨床応用

  • ARDS:
    • ARDS患者では、肺損傷のリスクを避けるために、低潮気量換気(4〜6 ml/kg)が推奨されます。
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD):
    • COPD患者では、CO2保持のリスクがあるため、適切なVTと呼吸回数を設定し、過換気や過度のCO2排出を避けることが重要です。
  • 通常の術後管理:
    • 一般的な患者では、通常の換気設定(6〜8 ml/kg)で酸素化とCO2排出のバランスを取ります。

5. まとめ

人工呼吸器の一回換気量(VT)は、酸素供給とCO2排出に直接影響を与えるため、患者の状態に応じて適切に設定することが重要です。肺保護換気を念頭に置き、適切なVTを選びながら、他の設定(FiO2、PEEP、呼吸回数)と組み合わせて管理します。