慢性閉塞性肺疾患(COPD)について

慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、気道が慢性的に狭くなり、呼吸機能が低下する疾患の総称です。主に喫煙や大気汚染、有害物質への長期的な曝露が原因となります。慢性気管支炎と肺気腫が代表的な病態で、これらが同時に存在することもあります。

COPDの特徴

  1. 進行性の呼吸困難
    • 気管支の炎症や肺胞の破壊により、気流が制限されるため、患者は呼吸困難を感じます。進行するにつれて、運動時のみならず安静時にも呼吸困難が現れるようになります。
  2. 咳と喀痰(たん)
    • 慢性的な咳と喀痰の産生が特徴です。これらの症状は通常、朝に強く現れます。
  3. 喘鳴(ぜいめい)と胸の圧迫感
    • 気管支が狭くなることで、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴が聞こえることがあります。また、胸に圧迫感を感じることもあります。
  4. 進行性の病態
    • 症状は徐々に進行し、重度になると呼吸不全に至ることがあります。急性増悪(急な症状の悪化)は、感染や大気汚染などのトリガーによって引き起こされ、生命に危険を及ぼすことがあります。

COPDの原因

  1. 喫煙
    • 喫煙はCOPDの最も重要な原因で、患者の80~90%は喫煙者または元喫煙者です。喫煙による有害物質が気道と肺を直接傷害し、慢性的な炎症を引き起こします。
  2. 有害物質への曝露
    • 長期的な職業的曝露(例: 化学物質、粉塵)、室内外の大気汚染、バイオマス燃料の煙などもリスク要因です。
  3. 遺伝的要因
    • α1-アンチトリプシン欠乏症などの遺伝的要因がCOPDを引き起こすことがあります。この遺伝子異常がある場合、特に若年で発症するリスクが高くなります。

COPDの診断基準

COPDの診断には、主に患者の症状、病歴、および肺機能検査(スパイロメトリー)を用います。

  1. 症状
    • 長期間持続する咳、喀痰、呼吸困難が主要な症状です。これらの症状が少なくとも3ヶ月間、2年連続で持続する場合、COPDが疑われます。
  2. 肺機能検査(スパイロメトリー)
    • 1秒量(FEV1)/努力肺活量(FVC)の比率: この値が70%未満の場合、COPDの可能性が高いとされます。
    • FEV1の低下度: COPDの重症度の評価には、FEV1の予測値に対する比率が使われます(GOLD分類に基づく)。
  3. 画像検査
    • 胸部X線やCTスキャンで、肺の過膨張、気腫の兆候、気管支壁の肥厚などが確認されることがあります。

COPDの治療方法

COPDの治療は、症状の緩和、急性増悪の予防、進行の抑制、および生活の質の向上を目指して行われます。

  1. 禁煙
    • 説明: COPDの進行を防ぐ最も重要な治療法です。喫煙を続けることで肺の損傷が加速するため、禁煙支援が重要です。
  2. 薬物療法
    • 吸入薬: 主に使用される薬物には、短時間作用型および長時間作用型の気管支拡張薬(β2刺激薬、抗コリン薬)、吸入ステロイド(ICS)があります。
      • 短時間作用型気管支拡張薬(SABA/SAMA): 急性増悪時や必要時に使用され、気管支の一時的な拡張を助けます。
      • 長時間作用型気管支拡張薬(LABA/LAMA): 継続的に使用することで、呼吸困難や運動耐性の改善を図ります。
      • 吸入ステロイド(ICS): 中等度から重度のCOPD患者に対し、急性増悪のリスクが高い場合に併用されます。
    • 経口薬: テオフィリン、ロフルミラストなどが使用されることがあります。
  3. 酸素療法
    • 説明: 酸素療法は、重度のCOPDで慢性的な低酸素血症がある患者に対して行われます。持続的な酸素供給により、生命予後の改善が期待されます。
  4. リハビリテーション
    • 肺リハビリテーション: 呼吸機能の改善、筋力の強化、運動耐性の向上を目指したプログラムが行われます。運動療法、栄養指導、呼吸訓練などが含まれます。
  5. 手術療法
    • 肺減量手術: 肺気腫が重度で、特定の肺区域に限局している場合に、病変部を除去することで呼吸機能を改善します。
    • 肺移植: 特に若年で重度のCOPD患者に対して、最終手段として行われることがあります。
  6. 急性増悪時の対応
    • 抗生物質治療: 細菌感染が原因で増悪が疑われる場合、抗生物質が投与されます。
    • ステロイド治療: 急性増悪時には、短期間の全身性ステロイド治療が行われることがあります。

COPDの予防と管理

  • 予防: 禁煙が最も効果的な予防策です。大気汚染の回避や職場での有害物質への曝露を減らすことも重要です。
  • 管理: 定期的な医師のフォローアップ、肺機能検査、予防接種(インフルエンザや肺炎球菌ワクチン)が推奨されます。

COPDの予後

COPDは進行性の疾患であり、時間とともに症状が悪化する可能性があります。早期の診断と適切な治療により、病態の進行を遅らせ、患者の生活の質を向上させることが可能です。しかし、COPDは治癒しない疾患であるため、終生の管理が必要です。重度の患者では、急性増悪や合併症(呼吸不全、心不全、肺高血圧症など)により、生命予後が悪化することがあります。