肺炎について

肺炎は、肺に炎症を起こす感染症であり、細菌、ウイルス、真菌などの病原体が原因となります。肺の空気が入る部分である肺胞に炎症や液体がたまることで、酸素と二酸化炭素の交換が妨げられ、呼吸困難や咳、発熱などの症状が現れます。肺炎は、軽度から重度までさまざまで、特に高齢者や免疫力が低下した人では重症化することがあります。

肺炎の種類

肺炎は、原因となる病原体や感染の状況によっていくつかの種類に分けられます。

  1. 市中肺炎(Community-Acquired Pneumonia: CAP)
    • 説明: 日常生活の中で発症する肺炎です。病院外で感染するため、市中肺炎と呼ばれます。
    • 主な病原体: 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、クラミドフィラ(Chlamydophila pneumoniae)など。
  2. 院内肺炎(Hospital-Acquired Pneumonia: HAP)
    • 説明: 病院に入院中の患者が入院後48時間以上経過してから発症する肺炎です。入院時には症状がなかった肺炎を指します。
    • 主な病原体: 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA: Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus)、クレブシエラ(Klebsiella pneumoniae)などの耐性菌が多いです。
  3. 誤嚥性肺炎(Aspiration Pneumonia)
    • 説明: 食べ物、飲み物、唾液、胃酸などが気管に誤って入り、細菌が肺に到達して発症する肺炎です。飲み込む機能が低下している高齢者や神経疾患のある人に多く見られます。
    • 主な病原体: 口腔内常在菌や胃酸に含まれる細菌(嫌気性菌など)。
  4. 免疫抑制関連肺炎(Pneumonia in Immunocompromised Hosts)
    • 説明: 免疫力が低下している患者(HIV/AIDS患者、臓器移植後の患者、抗がん剤治療中の患者など)に発症する肺炎です。
    • 主な病原体: サイトメガロウイルス(CMV)、ニューモシスチス・イロベチ(Pneumocystis jirovecii)、真菌(カンジダ、アスペルギルス)など。

肺炎の症状

  • 一般的な症状
    • 発熱、寒気
    • 咳(しばしば痰を伴う)
    • 呼吸困難、息切れ
    • 胸痛(特に深呼吸や咳をするときに悪化する)
    • 疲労感、全身倦怠感
    • 食欲不振
    • 頭痛や筋肉痛
  • 重症例の症状
    • 高熱、頻呼吸、低血圧
    • 意識障害(特に高齢者でよく見られる)
    • チアノーゼ(唇や指先が青紫色になる)

肺炎の診断

  1. 問診と身体検査
    • 症状の確認や既往歴の調査、聴診器での肺音の聴取が行われます。
  2. 胸部X線検査
    • 肺炎の診断において最も重要な検査です。肺の影(浸潤影や結節など)が見られることで、肺炎が確認されます。
  3. 血液検査
    • 白血球数の増加やC反応性蛋白(CRP)の上昇が炎症の指標となります。重症例では、酸素飽和度の低下や酸塩基平衡異常のチェックも行います。
  4. 喀痰検査
    • 痰を採取して、病原菌の特定や抗菌薬感受性を調べます。特に難治性肺炎や耐性菌が疑われる場合に行われます。
  5. 血液培養
    • 血液を採取して、菌血症の有無を確認します。重症肺炎では、感染が全身に広がるリスクがあるため重要です。
  6. PCR検査
    • 特定のウイルスや非定型病原菌(マイコプラズマ、クラミジアなど)の検出に使用されます。

肺炎の治療方法

  1. 抗菌薬治療
    • 説明: 肺炎の治療の基本は抗菌薬の使用です。原因菌に応じて適切な抗菌薬を選択します。
    • 市中肺炎: 一般的には、ペニシリン系、マクロライド系、キノロン系などが使用されます。
    • 院内肺炎: 広域抗菌薬や、耐性菌に対する薬剤(バンコマイシン、タゾバクタム/ピペラシリンなど)が使用されることが多いです。
  2. 酸素療法
    • 説明: 呼吸困難がある場合、酸素療法が行われます。酸素投与により血中の酸素濃度を上げ、患者の呼吸状態を安定させます。
  3. 輸液・栄養管理
    • 説明: 発熱や食欲不振による脱水や栄養不良を防ぐために、必要に応じて点滴などで水分や栄養を補充します。
  4. 呼吸管理
    • 説明: 重症の場合、人工呼吸器や非侵襲的陽圧換気(NPPV)などで呼吸をサポートします。
  5. その他の治療
    • 鎮痛薬や解熱剤: 痛みや高熱に対する対症療法として使用されることがあります。
    • 理学療法: 胸部理学療法や呼吸リハビリテーションを行い、痰の排出を助けたり、呼吸筋の強化を図ることもあります。

肺炎の予防

  1. ワクチン接種
    • 肺炎球菌ワクチン: 高齢者や免疫低下患者、慢性疾患のある人に対して、肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されています。
    • インフルエンザワクチン: インフルエンザは肺炎のリスクを高めるため、毎年のインフルエンザワクチン接種も重要です。
  2. 手洗いと衛生管理
    • 感染予防のため、手洗いやアルコール消毒を徹底し、咳やくしゃみをするときは口を覆うなど、基本的な衛生管理を行います。
  3. 禁煙
    • 喫煙は肺炎のリスクを高めるため、禁煙が推奨されます。

肺炎の予後

肺炎の予後は、年齢、基礎疾患の有無、病原体の種類、治療の早さと適切さに依存します。一般に、若年者や基礎疾患のない人では良好な予後が期待されますが、高齢者や免疫力が低下している患者では重症化しやすく、死亡率が高くなります。また、重症の肺炎では合併症(呼吸不全、菌血症、敗血症など)が生じるリスクがあるため、早期の診断と治療が重要です。

肺炎は多くの原因で発症するため、その治療や予防には包括的なアプローチが求められます。特に高齢者や慢性疾患を持つ人々においては、予防的な措置が特に重要です。